新設デジタル遺言保管証書遺言とは費用や手続きの流れについて
2026/07/25

2026年6月に新しい遺言方式の法律が成立しました。
デジタル遺言と呼ばれるこの制度が運用されると、パソコンやスマホで遺言を作成できるようになります。
本記事では制度の仕組みや手続きの流れなどについて解説します。
デジタル遺言とは?新設の保管証書遺言
デジタル遺言は報道などで使われる通称であり、改正民法上の正式名称は保管証書遺言といいます。
現行の3つの遺言方式に新たに加わる普通方式の遺言として民法に新設されました。
この遺言は、パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器で作成した遺言を法務局の遺言書保管官に保管してもらう新しい方式です。
とはいえ、デジタル遺言という通称からスマートフォンで文章を打って、保存すれば直ちに遺言になると誤解されがちですがそうではありません。
デジタル遺言を作成するためには、法務局の関与のもと、本人確認と意思確認の手続きを経る必要があります。
デジタル遺言は手書き文字と違って筆跡が残らないため、誰でも同じ見た目の文章を作れてしまうという非常に大きなリスクがあります。
このようなリスクを避けるために、本当に本人が正常な判断能力のもとで自分の意思で作ったのかを法務局がチェックするのです。
なお、混同されやすい制度として公正証書遺言のオンライン化があります。
公証人が作成する公正証書遺言についてはすでに2025年10月から作成手続きの一部がデジタル化されています。
ウェブ会議を利用することで公証役場へ行かずに作成や電子保存が可能になっています。
しかしこれは既存の公正証書遺言の手続きをデジタル化するものです。
これに対し保管証書遺言はデジタル技術を前提とした新しい遺言方式そのものという点に特徴があります。
既存制度のオンライン化と新しい方式の創設という違いを明確に押さえておく必要があります。
いつから始まる法律の施行スケジュール
デジタル遺言の施行日は、現在のところ具体的に決まっていません。
ただし、2026年6月24日に公布され、公布日から3年以内に施行されるという記載がありました。
したがって、遅くとも2029年6月24日までに、施行される予定です。
デジタル遺言と従来の遺言との違いを比較
現行制度には自筆証書遺言と公正証書遺言と秘密証書遺言の3つの方式があります。
秘密証書遺言は作成が難しいわりには無効になるリスクが高く、実際に作成されている数は年間100件程度にとどまっています。
そのため実務上の選択肢は、自筆証書遺言・公正証書遺言・保管証書遺言の3つと考えるのが現実的です。
以下に3つの方式の違いを表にしたので確認してみてください。。
| 比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 保管証書遺言 |
| 作成方法 | 全文と日付と氏名を手書きし押印 | 公証人が作成 | デジタル端末等で全文を作成 |
| 保管場所 | 自宅または法務局 | 公証役場 | 法務局 |
| 本人確認 | 法務局保管利用時のみ実施 | 公証人が対面で確認 | 保管官の前で全文を口述 |
| 証人 | 不要 | 2名以上必要 | 不要 |
| 検認 | 原則必要 | 不要 | 不要 |
| 費用 | 無料から数千円程度 | 財産額に応じた公証人手数料 | 未定 |
| 利用時期 | 現在利用可能 | 現在利用可能 | 公布から3年以内 |
デジタル遺言の手続きの流れ
デジタル遺言のおおまかな手続きの流れは以下の通りです。
STEP1:遺言のデータ作成
デジタル遺言では、パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器を使用して遺言の全文を作成します。
電子データで作成する場合は、遺言内容の全文に加えて遺言者の氏名を記録する必要があります。
なお、財産指定などで不動産を特定の者に相続させたい場合、登記事項証明書のとおりに所在や地番や家屋番号を正確に記載しなければならない点には注意が必要です。
住居表示のまま書くと将来の相続登記で修正が必要になることがあります。
普段使っている住所表記と登記簿上の地番は別物です。
財産の特定があいまいにならないよう細心の注意を払って文章を遂行することが大切です。
STEP2:法務局へのオンライン申請
遺言書を作成したら、署名に代わるどのような手続きと法務局へオンライン申請を行う必要があります。
具体的にどのような手続きが必要になるかは今後の法務省令で定められます。
なお、要綱案の段階ではマイナンバーカード等を用いた電子署名による厳格な本人確認が求められると想定されています。
署名等の措置が完了した後、遺言書保管法に基づき法務局に保管をオンラインなどで申請を行うことになります。
STEP3:法務局での本人確認と保管
遺言書の申請後、遺言者は、遺言書保管官の前で遺言の全文を口述します。
口述は、本人確認ではなく保管証書遺言の成立に必要な方式要件なので必ず行われます。
口述方法に関しては、保管所に赴くか、保管官が相当と認めた場合は映像と音声で相互に確認できるウェブ会議でも行うことができます。
なお、話すことが困難な方への配慮として通訳人による申述や筆談で代えることも可能です。
STEP4:保管証の受領
デジタル遺言は、法務局での手続きが完了し、適切に保管されることで初めて遺言としての法的な効力が生じます。
作成した時点で即座に効力が生じる自筆証書遺言との違いがここにあります。
保管手続きが完了すると法務局から保管証に相当する証明が発行されるといわれています。
必要書類と想定される費用
デジタル遺言を作成するうえで必要と想定されるであろう書類と費用について確認していきましょう。
必要書類
2026年7月時点では詳細な政省令が公表されていないため、必要書類に関して確定した情報はありません。
ただし、現行の制度や要綱案の枠組みから以下の書類が求められる可能性が高いと考えられます。
- マイナンバーカードなどの電子署名に用いる本人確認書類
- 遺言書本体の電子データまたは書面
- 不動産の正確性を確認するための登記事項証明書
- 法務局所定の申請書類一式
費用
デジタル遺言の作成にかかる費用に関して、現時点では具体的な情報はありません。。
とはいえ、現行の自筆証書遺言書保管制度は遺言書1通につき3900円の手数料に設定されています。
デジタル遺言は、法務局が主体となる制度であるため、自筆証書遺言の保管制度と似たよう水準で費用設定されるのではないかと予想されています。
デジタル遺言のメリット・デメリット
デジタル遺言のメリットやデメリットについて考えていきたいと思います。
メリット
保管証書遺言を利用することで得られると予想されるメリットは以下の通りです。
メリット1:自宅で作成できオンラインで申請可能に
デジタル遺言のメリットとしてデジタルデータとして遺言を作成し、またオンライン申請が可能である点といえます。
現行の自筆証書遺言は全文と日付と氏名を自分で手書きする必要があります。
財産が多い方や高齢で筆記が負担になる方にとって大きなハードルでした。
保管証書遺言では端末等で全文を作成できるため手書きの負担が完全に解消されます。
また、書き損じによる書き直しや加除訂正の厳格な法的方式に悩まされることもなくなります。
メリット2:紛失改ざんのリスクがなく安全に保管
デジタル遺言のメリットとして紛失や改ざんのリスクがないことです。
自筆証書遺言は自宅で保管していると紛失してしまったり、相続人が存在に気付かなかったりするリスクがあります。
また、特定の相続人によって破棄されたり、都合よく書き換えられたりする事態が起きることもあり得ます。
しかし、保管証書遺言は法務局という公的機関で厳重にデータ保管されるため、このようなリスクを排除することが可能です。
メリット3:家庭裁判所の検認が不要で相続手続きがスムーズ
デジタル遺言のメリットとして、家庭裁判所での検認が不要な点です。
自筆証書遺言を自宅で保管していた場合相続開始後に家庭裁判所での検認手続きが必ず必要です。
相続人全員への通知や期日の調整が必要で手続きの開始まで1か月から2か月を要することも珍しくありません。
法務局で保管されている遺言書は検認が完全に不要となり、預貯金の解約などの相続手続きを非常にスムーズに進められます。
メリット4:公正証書遺言より費用を抑えられる可能性がある
デジタル遺言のメリットとして、公正証書遺言よりも手数料が低い可能性がある点が考えられます。
公正証書遺言では数万円以上の公証人手数料に加えて証人2人以上の立会いが必要です。
適任者が見つからず専門家に立会いを依頼すると日当などの追加費用もかかります。
保管証書遺言は法務局の関与により証人が不要であり公正証書遺言に比べてトータルの費用負担を大幅に抑えられる可能性があります。
デメリット
保管証書遺言を利用する際に気をつけなければならないデメリットについて紹介します。
デメリット1:遺言内容の法的な有効性は自己責任
法務局の遺言書保管官が確認するのはあくまで方式や形式面が整っているかどうかです。
その内容で本当に相続人が困らないかや遺留分を侵害していないかといった実質的な妥当性は誰もチェックしてくれません。
相続税の負担がどうなるかという専門的な内容面の妥当性は考慮されません。
専門的な助言がないという点は保管証書遺言のデメリットといえるかもしれません。
デメリット2:本人が手続きを行う必要がある
遺言書保管官の前で遺言の全文を口述する必要があるため手続きを代理人に完全に委ねることはできません。
デジタル機器の操作や電子署名の付与といった手続きが生じるため、不慣れな方にとっては、デメリットといえるでしょう。
デジタル遺言がおすすめな人
デジタル遺言がおすすめな人は、デジタル機器の操作に抵抗がなく文書作成に慣れている方といえます。
また、財産の内容が比較的シンプルで相続人間に争いの火種が少ない方にも適しているといえるでしょう。
まとめ
今回はデジタル遺言について紹介しました。
保管証書遺言はデジタル機器で作成し法務局で保管する新しい遺言方式です。
とはいえ、まだ利用できる制度ではないので、すぐに遺言を作成したい方は、いったん現行制度の遺言方式で作成し、正式に施行されたときに変更することをおすすめします。




