堕胎罪と母体保護法|成立要件・罰則・人工妊娠中絶との違い

2026/09/15

堕胎罪と母体保護法|成立要件・罰則・人工妊娠中絶との違い

予期せぬ妊娠やさまざまな事情に直面した際、中絶が法律上どのように位置づけられているのか疑問を抱く方は少なくありません。

本記事では、人工妊娠中絶について解説します。

堕胎について

日本の法律では、胎児の生命を保護する観点から、勝手な中絶は原則として犯罪になります。

しかし、母体の健康や生活を守る母体保護法の条件を満たせば、例外的に手術が認められます。

トラブルを防ぐためにも、ルールを正しく理解しておくことが大切です。

堕胎とは?

法律上の堕胎とは、予定日より前に薬物や手術などの手段で、胎児を母体の外に出す行為を指します。

お腹の中で命を奪って出すだけでなく、人為的に生きたまま外へ出した場合も含まれます。

外に出た後に胎児が生き延びたかどうかや、妊娠週数の長さは関係ありません。

自然な出産を妨げて無理やり胎児を外に出す行為全般が対象となります。

人工妊娠中絶との違い

刑法上の堕胎と母体保護法上の人工妊娠中絶は、行為そのものは類似していますが、法的な違法性の有無において違いがあります。

両者の相違点を整理した一覧は次の通りです。正当な医療行為として認められるか否かが、両者を分ける根本的な境界線となります。

比較項目堕胎(刑法)人工妊娠中絶(母体保護法)
法律上の扱い原則として犯罪条件を満たせば合法
手術できるひと誰が行っても処罰の対象指定を受けた専門の医師のみ
認められる理由なし。すべて禁止。身体的・経済的な困難や性暴力被害
受けられる期間期間を問わず禁止妊娠22週未満に限る
法律上の根拠刑法母体保護法

指定の医師が法律の条件を守って行う手術だけが合法となり、それ以外の勝手な中絶はすべて堕胎罪として処罰されます。

堕胎罪の種類と罰則

刑法では、誰がどのような態様で堕胎を行ったかに応じて、複数の罪名と異なる法定刑を定めています。

自分の身体に対して行う場合と第三者が関与する場合で刑罰の重さが区別されています。

主な類型は次の通りです。

  • 自己堕胎罪 
  • 同意堕胎罪 
  • 業務上堕胎罪 
  • 不同意堕胎罪 
  • 不同意堕胎致死傷罪

それぞれの罪について正しく理解しておく必要があります。

自己堕胎罪

自己堕胎罪とは、妊娠中の女性自身が薬物や危険な手段を使って勝手に中絶した場合に成立する犯罪です。

刑法に規定されており、法定刑は1年以下の拘禁刑と定められています。

病院で正規の手続きを踏まず、海外の未承認薬を飲んだり自己流で流産させようとしたりした際に適用されます。

同意堕胎罪

同意堕胎罪は、妊婦本人から頼まれたり、承諾を得たりした上で、医療資格のない一般人が中絶させた場合に成立する罪です。

刑法に規定されており、法定刑は2年以下の拘禁刑が科されます。

パートナーや知人が妊娠した女性の頼みを受けて、薬を飲ませたり薬を入手するなどの手助けをした場合が当てはまります。

その結果として女性にけがをさせたり死亡させたりした場合は、さらに重い刑罰の対象です。

本人からお願いされた形であっても、資格を持たない一般人が中絶に関わる行為は法律で禁じられています。

業務上堕胎罪

業務上堕胎罪は、医師や助産師、薬剤師などの専門資格を持つひとが、女性のから頼まれて中絶させた場合に成立する罪です。

刑法に規定されており、3月以上5年以下の拘禁刑が科されます。

専門的な立場を悪用した行為であるため、一般人が行う同意堕胎罪よりも重い刑罰となります。

また、女性に怪我をさせたり死亡させたりした場合は、6月以上7年以下の重い刑罰が科される規定です。 

医師免許を持っていても、母体保護法の指定を受けていない場合や要件を守らない中絶は本罪の対象となります。 

不同意堕胎罪

不同意堕胎罪は、妊娠している女性の同意を得ずに、無理やり中絶させた場合に成立する重大な犯罪です。 

刑法に規定されており、6月以上7年以下の拘禁刑が科されます。

具体的に罪となりえるケースは以下のとおりです。

  • 未遂である場合
  • 女性をだまして同意させた場合
  • 拒絶できない心理状態に追い込んだ場合

また、女性を負傷させた場合は6月以上15年以下、死亡させた場合は3年以上の拘禁刑という重い刑罰が科されます。

不同意堕胎罪は、胎児の命だけでなく、女性の意思や体の安全を著しく傷つける行為として厳しく罰せられます。 

堕胎罪と殺人罪の違い

堕胎罪と殺人罪の最大の違いは、命を奪う対象が胎児か、生まれた後の人かという点です。

法律上、胎児の体の一部が母体の外に出た時点から人として扱われます。

そのため、それぞれ罪が成立する場合は以下の通りです。

  • 堕胎罪:お腹の中にいる胎児を死亡させた場合
  • 殺人罪:分娩が始まって体の一部が出たあとに故意で命を奪った場合

両者の違いをさらに詳しく表にまとめました。

比較項目堕胎罪殺人罪
保護対象母体内の胎児出生後の人
法定刑1年以下の拘禁刑など死刑、または無期もしくは5年以上の拘禁刑
未遂処罰不同意堕胎罪のみ未遂処罰ありすべて未遂処罰あり

命がどの段階にあるかによって、適用される罪や刑罰の重さが明確に分かれています。

堕胎罪の成立要件

堕胎罪が成立するためには、法律で決められた以下の条件をすべて満たす必要があります。

  • 妊娠の事実がある
  • 胎児が母体内にいる
  • 堕胎の意思
  • 流産・死産の発生

以上の条件が1つでも欠けている場合、堕胎罪は成立しません。

妊娠の事実がある

堕胎罪が成立する大前提として、実際に妊娠している事実が必要で以下のケースでは罪に問われません。

  • 妊娠していなかった場合
  • お腹の中で胎児がすでに亡くなっていた場合

ただし、妊娠週数の長さや胎児の成長度合いは関係なく、受精卵が着床して命が宿っていれば対象となります。

具体的には診断記録や検査結果などに基づいて、妊娠していたかどうかは判断されます。

胎児が母体内にいる

堕胎を試みた時点で、生きた胎児がお腹のなかにいる状態である必要があります。

すでに生まれて体の一部が外に出ている場合は、胎児ではなく人として扱われます。

また、病気や事故などですでに胎児が亡くなっていた場合も堕胎罪は成立しません。

お腹の中で生きている胎児に対して人為的な危害を加えたかどうかが判断されます。

堕胎の意思

胎児を無理やり外に出そうとする意図があったかどうかが問われます。

うっかり転んだり過度な運動をして流産してしまったりした過失の場合は、罪に問われません。 

一方で、暴行を加えるなどして流産する危険をわかっていながらあえて行った場合は、罪が成立します。 

流産・死産の発生

薬や器具などを使って、予定より前に胎児を外に出す結果が生じることが条件となります。

外に出された胎児が亡くなっていた場合はもちろん、生きていた場合でも成立します。

胎児が外に出る結果が生じて初めて処罰され、行った行為と胎児が外に出た結果につながりがあるかどうかが判断されます。

母体保護法で認められる人工妊娠中絶の条件

母体保護法で認められた条件を守れば、中絶手術は犯罪にならず合法となります。

認められるための主な条件は次の通りです。

  • 妊娠22週未満であること 
  • 身体的や経済的な理由、または性暴力による妊娠であること 
  • 指定を受けた医師が手術を行うこと 
  • 本人と配偶者の双方が同意していること

これらの要件をすべて満たしてはじめて、正当な医療行為として認められます。

妊娠週数が22週未満

母体保護法に基づく中絶手術は、妊娠22週未満、すなわち妊娠21週6日までに限られます。

妊娠22週以降は胎児が外でも生きられる可能性が高まるため、どんな理由があっても手術は認められません。

週数を1日でも過ぎて中絶を行った場合は、医師も本人も処罰の対象となります。

手続きや準備に時間がかかるため、早めに病院を受診して相談することが大切です。

身体的・経済的理由または性的暴力による妊娠

母体保護法では、人工妊娠中絶が認められる正当な理由として2つの条件を定めています。

  1. 妊娠の継続や出産が、身体的または経済的な理由により母体の健康を著しく害するおそれがあること 
  2. 暴行や脅迫、あるいは抵抗できない状態で性行為を強要されて妊娠に至ったこと 

自分勝手な都合や胎児の性別選択などを理由とする中絶は法律上認められていません。

母体保護法指定医による手術

法律で認められた中絶手術を行えるのは、都道府県医師会が指定した医師のみに限られます。 

母体の安全を守るため、高度な産婦人科の技能や経験を持つ医師に限定されているからです。 

そのため、指定を受けていない一般の医師や助産師が手術を行った場合は、業務上堕胎罪に問われます。 

また、指定医師には中絶が法律の条件に当てはまるかどうかを医学的な視点から厳格に判断する義務があります。 

安全に手術を受けるためにも、担当の医師が指定医師の資格を持っているか確認しておくと安心です。 

本人と配偶者の同意がある

中絶手術を行う際は、原則として本人と配偶者の双方による同意が必要です。

法律上の配偶者だけでなく、事実婚のパートナーも配偶者に含まれます。

書面による同意書の提出が義務付けられており、どちらか一方が反対している状態では手術を受けられません。 

ただし、夫婦関係の破綻や特殊な事情がある場合には、配偶者の同意が不要となる例外規定も用意されています。

自分の状況に合わせた例外の扱いを知っておくことが大切です。

配偶者の同意が不要なケース

母体保護法により、特定の事情が存在する場合には本人の同意のみで中絶手術が可能です。

配偶者の同意が不要となるケースは以下の通りです。

  • 相手が行方不明や連絡がつかないとき
  • 相手が重い病気や意識不明で意思表示ができないとき
  • 妊娠後に相手が亡くなったとき
  • 性犯罪被害によって妊娠したとき
  • 婚姻関係が破綻して別居しているとき

未婚女性の場合は法律上の配偶者に当たらないため、原則として本人の同意のみで中絶が可能です。

ただし実際の医療現場では、後々のトラブルを防ぐために相手男性の同意書を求められる場合が多くみられます。

未成年者の場合

未成年者が人工妊娠中絶を受ける場合、法律上では本人の同意があれば手術を受けられる規定になっています。

しかし実際の医療現場では、保護者や親権者の同意書の提出を求めることが多いです。

未成年者は契約行為を単独で行えないほか、手術費用や術後の健康管理に対する保護者の支援が必要となるためです。

親からの虐待やDV被害など特別な事情で保護者の同意が得られない場合は、児童相談所や公的機関と連携して手続きが進められます。

一人で悩まずに、早めに専門の相談窓口や産婦人科へ相談することが大切です。

【ケース別】違法性の判断

日常生活で起こりうる具体的なトラブルにおいて、堕胎罪が成立するかどうかの判断基準を整理します。

行為の目的や関与した人の意図によって、法的な責任は大きく異なります。

よくある5つの事例における判断基準は以下の表のとおりです。

ケース罪名・判断判断のポイント
海外の中絶薬を個人輸入して使った自己堕胎罪許可のない薬を自分で使う行為は違法
パートナーから中絶を強要された強要罪・不同意堕胎罪脅しによる同意は認められない
妊娠22週を過ぎて手術を受けた堕胎罪・業務上堕胎罪期限を過ぎた中絶は禁止
暴行や交通事故で流産した傷害罪など妊婦へのケガとして処罰
パートナーに無断で手術を受けた罪にならない未婚なら本人の同意のみで適法

海外の中絶薬を個人輸入して使った

海外からの経口中絶薬を個人輸入して自分で服用すると、自己堕胎罪に問われます。

日本でも中絶薬は承認されていますが、指定を受けた医師の厳格な管理下でしか使えません。 

許可なく手に入れた薬を自己判断で使って流産させる行為は、法律で禁止されています。 

また、個人輸入の薬は偽物や粗悪品の危険があり、大量出血など体に重い被害を及ぼす恐れがあります。 

命に関わる危険もあるため、中絶を考える際は必ず正規の医療機関を受診してください。 

パートナーに中絶を強要された

暴力や脅しで無理やり中絶を迫ったパートナーには、強要罪や不同意堕胎罪など重い刑事責任が問われます。

脅迫や嘘によって無理やり取られた同意は、法律上無効として扱われるためです。 

無理強いされた女性側は被害者となるため、罪に問われることはありません。 

また刑事責任だけでなく、民事でも高額な慰謝料を請求できます。

妊娠22週を過ぎてから中絶手術を受けた

妊娠22週以降の中絶手術は法律で認められず、中絶手術を行った場合は医師も女性も堕胎罪に問われます。

胎児がお腹の外でも生きられる時期に入るため、いかなる理由があっても手術はできません。

施術した医師は業務上堕胎罪、手術を受けた女性は自己堕胎罪の対象となります。

胎児に重い病気や障がいが見つかった場合でも、期限を過ぎた中絶の例外は認められません。

母体の命に関わる緊急時を除いて厳しく処罰されるため、早めの受診と判断が求められます。

第三者からの暴行や事故で流産してしまった

暴行や交通事故で流産させられた場合、加害者は重い刑事責任を負います。

相手が妊娠を知らなかった場合は、胎児の死亡そのものではなく、妊婦への傷害罪として処罰されます。 

一方で、流産させる目的で暴行を加えた場合は、不同意堕胎致傷罪が成立します。 

交通事故の場合は過失運転致死傷罪などが適用されます。 

民事上でも、胎児を失った苦痛に対して妊婦への高額な慰謝料が命じられます。 

相手に隠して無断で中絶した

未婚の場合、相手に知らせず自分だけの同意で中絶手術を受けても罪には問われません。

法律で同意が必要とされる配偶者には、未婚の交際相手は含まれないためです。

中絶するかどうかの決定は女性自身の権利として尊重されます。

堕胎や中絶に関するよくある質問

中絶手術や堕胎罪に関して、多くの方が不安や疑問を抱く代表的な質問をまとめました。

Q. 自分で中絶を試みたら必ず逮捕されますか?

A.発覚した場合は自己堕胎罪に問われる可能性がありますが、まずは身体の救命や治療が優先されます。 

自己流で薬物や器具を使って流産させようとする行為は法律違反です。

自己堕胎は生命を脅かす重篤な感染症や大出血を引き起こすため、決して自力で中絶を試みてはなりません。

Q. パートナーが中絶に同意してくれません。手術はできますか?

A. 未婚の場合は、本人の同意のみで手術を受けられる医療機関があります。

未婚の相手は法律上の配偶者に当たらないため、本人の同意のみでの中絶は法律上問題ありません。

結婚している場合は原則として配偶者の同意が必要ですが、DV被害や関係破綻などの事情があれば例外的に受けられます。

相手が同意しない場合や連絡が取れない場合でも対応してくれる医師は多いため、まずは産婦人科や相談窓口に事情を打ち明けて相談してください。

Q. 中絶手術に失敗したら医師を罪に問えますか?

A. 医師に明らかなミスや注意不足があった場合は、業務上過失致死傷罪や損害賠償を追及できます。 

正当な手順で行われた手術であれば、堕胎罪に問われることはありません。 

しかし、子宮の損傷や器具の取り残し、麻酔ミスなどで後遺症が残った場合は、医師の過失として責任を問えます。 

適切な処置を怠ったと認められれば、治療費や慰謝料の請求も可能です。 

医療ミスが疑われるときは、カルテなどの記録を確保したうえで専門の弁護士に相談してください。 

Q. 中絶に関する慰謝料は請求できますか?費用相場は?

A. 相手に不誠実な対応や無理強いがあった場合は慰謝料を請求でき、相場は50万円から200万円程度です。

お互い合意の上での妊娠であれば、中絶したこと自体を理由に慰謝料を求めることは原則できません。

ただし、結婚すると嘘をついていた場合や、音信不通になって逃げた場合などは違法とみなされます。

中絶手術にかかった費用については、男女で半分ずつ負担すべきとする判断が一般的です。

相手の態度が悪質な場合は、精神的苦痛への慰謝料として100万円前後の支払いが命じられるケースもあります。

Q. 中絶の慰謝料請求に時効はありますか?

A. あります。

無理やり中絶を迫られたり不誠実な対応をされたりした場合、3年を過ぎると法的な請求が難しくなります。

手術費用の半分を請求する権利についても、期限は5年です。

期限を過ぎると請求できなくなってしまうため、早めに弁護士などの専門窓口へ相談することが大切です。

Q. パートナーから慰謝料を請求された場合はどうしたらいいですか?

A. 自分の言動に違法性があるかを冷静に見極め、法外な要求には応じず弁護士へ相談してください。

妊娠や中絶はお互いの合意による行為の結果であるため、中絶したことだけで慰謝料を支払う義務はありません。

手術費用や医療費の半分を負担する責任は生じますが、相場から外れた高額請求に応じる必要はありません。

家族や職場にばらすと脅された場合は、恐喝罪や強要罪に当たる可能性があります。

安易に合意書へサインや押印をせず、弁護士を介して冷静に対処することが大切です。

まとめ

中絶は原則として犯罪ですが、母体保護法の要件を満たせば正当な医療行為として認められます。

妊娠22週未満の期限に、指定された医師による手術や正しい同意手続きを守る必要があります。

妊娠や中絶に関する法的トラブルに悩んだときは、医師や弁護士へ早めに相談することが大切です。

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