保護責任者遺棄罪とは?構成要件や判例

2026/08/25

保護責任者遺棄罪とは?構成要件や判例

乳幼児や重度の認知症を患った高齢者を自動車に置き去りにするなどといったことをした場合、保護司責任者遺棄罪に問われる可能性があります。

本記事では、保護責任者遺棄罪とはどのような罪なのか、構成要件や判例などを紹介します。

保護責任者遺棄罪とは?

保護責任者遺棄罪とは、助けを必要とする高齢者や子ども、病者などを保護すべき義務がある人が、その対象者を危険な場所に置き去りにしたり、必要な看護や介護を行わずに放置したりした場合に成立します。

本罪は、対象者の生命や身体に対する危険を未然に防ぐことを目的としているため、実際に傷害や死亡といった不都合な結果が発生していなくても、危険な状態を生じさせた段階で犯罪が成立します。

類似する犯罪との違い

保護責任者遺棄罪と類似した犯罪として、以下があります。

  • 保護責任者遺棄致死罪
  • 保護責任者遺棄致傷罪
  • 単純遺棄罪
  • 救護義務違反

それぞれの概要や違いは以下の通りです。

保護責任者遺棄致死罪

保護責任者遺棄致死罪とは、保護責任者が対象者を放置または遺棄した結果、対象者を死亡させてしまった場合に成立する罪です。 

遺棄行為そのものにとどまらず、人の死亡という重い結果が発生したことに対する結果的加重犯として厳しく処罰されます。

保護責任者遺棄致傷罪

保護責任者遺棄致傷罪とは、保護責任者が対象者を放置または遺棄した結果、対象者に怪我を負わせたり病状を悪化させたりした場合に成立する罪です。

放置や遺棄といった行為と身体への傷害結果との間に因果関係が認められることで成立します。

単純遺棄罪

単純遺棄罪とは、刑法に定められた犯罪であり、特別な保護義務を持たない人物が、高齢者や幼年者などを安全な場所から危険な場所へ移す(移置する)行為を指します。

もともと保護義務を負わない立場での行為であるため、保護責任者遺棄罪に比べると軽くなっています。 

救護義務違反(ひき逃げ)

救護義務違反とは、道路交通法に基づき、交通事故を起こした車両等の運転者が負傷者を救護せずに現場から立ち去る行為を指します。

刑法上の遺棄罪とは異なる特別法による処罰規定でありますが、事故の態様によっては保護責任者遺棄罪や同致死傷罪と併せて追及される可能性があります。 

構成要件

構成要件とは、ある行為が犯罪として成立するための法的条件のことです。

保護責任者遺棄罪が成立するためには、主に、3つの構成要件を満たす必要があります。

  • 保護の対象者
  • 保護責任者
  • 遺棄・不保護にあたる行為

これらを一つずつ説明していきます。

保護の対象者

保護の対象者とは、自力で生活動作を行ったり身の安全を維持したりすることが困難な人物を指します。

具体的には以下のような人々が該当します。

老年者・幼年者

老年者とは、加齢に伴い身体能力や判断能力が低下し、自力で生活することが難しい高齢者のことです。

幼年者とは、乳幼児や未就学児、低学年の児童など、自らの判断で身の安全を確保できない子どもを指します。

身体障害者・病者

身体障害者とは、身体機能の障害により自力での移動や生活動作が困難な人のことです。

病者とは、病気によって歩行や食事、意思表示などが正常に行えない状態にある人を指します。

なお、判例上、一時的に深刻な意識障害や運動障害を起こしている泥酔者や、不測の行動をとるおそれのある精神疾患者も、病者に含まれると解釈されています。

保護責任者(行為者)

保護責任者とは、対象者を保護すべき法律上または社会通念上の義務を負っている人を指します。

保護責任が発生する根拠は、主に以下の3つに分類されます。

①法令に基づく責任

保護責任が生じるケースとして、法律の規定によって直接保護義務が課されていることが挙げられます。

具体的には、未成年の子に対する親権者や配偶者間の扶助義務、直系血族間の扶養義務などが該当します。

②契約に基づく責任

当事者間の契約や雇用関係によって保護義務を引き受けた場合が挙げられます。

介護施設のスタッフ、保育園の保育士、個別に契約したベビーシッターや有償のガイドなどがこれに該当します。

③事務管理・条理に基づく責任

明確な法律や契約がなくても、社会通念(条理)や自らの事前行動によって相手を保護すべき立場になった場合が挙げられます。

具体的には、事故を起こした加害者が被害者を自分の車に乗せた場合や、自ら進んで病人を家に招き入れて看病を始めた場合、また、長年同居して事実上生活を支えていた場合などが含まれます。

遺棄・不保護にあたる行為

保護責任者遺棄罪の実行行為には、遺棄と不保護の2つの態様が存在します。

遺棄

遺棄とは、対象者を安全な場所から危険な場所へと移動させる行為や、危険な場所に置き去りにして立ち去る行為を指します。

前者を積極的遺棄、後者を置去りと呼びます。

どちらも対象者を危険な状態に晒す行為であるため、法律上で処罰の対象となります。

不保護

不保護とは、対象者が置かれている危険な状態を知りながら、生命に必要な保護を行わない行為を指します。

生命に必要な保護とは、具体的に以下のような行為を指します。

  • 食事の提供
  • 通院・受診の手配
  • 保温
  • 救急車の要請

刑罰

保護責任者遺棄罪で有罪となった場合、次のような刑罰を科されます。

拘禁刑

保護責任者遺棄罪の法定刑は、3ヶ月以上5年以下の拘禁刑と定められています。

刑法等の一部を改正する法律の施行に伴い、従来の懲役刑・禁錮刑は拘禁刑へ一元化されています。

本罪には罰金刑の規定が存在しないため、起訴されて有罪判決が出た場合は、必ず拘禁刑が言い渡されることになります。

類似する犯罪の刑罰

保護責任者遺棄罪と類似する罪の刑罰は、以下の表のとおりです。

犯罪の種類刑罰(法定刑)
保護責任者遺棄罪3ヶ月以上5年以下の拘禁刑
保護責任者遺棄致死罪3年以上の有期拘禁刑(最長20年)
保護責任者遺棄致傷罪3ヶ月以上15年以下の拘禁刑
単純遺棄罪1年以下の拘禁刑
救護義務違反(ひき逃げ)10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金

判例・事例

過去の裁判例や実際の事件から、どのような状況で保護責任者遺棄罪、または保護責任者致死傷罪)の成立が認められたのかを紹介します。

子供の車内置き去り・ネグレクト(名古屋地判平19・7・9)

子供の車内置き去り・ネグレクトとして、2007年に起きたパチンコ店の駐車場で車内に乳児を放置し、熱中症で死亡させた事例があります。

この判例では、当日の暑さなどを知った上で、必要な保護をしなかったと認められるかが、遺棄の故意を判断する基準とされました。

なお、こども家庭庁のガイドラインでも、乳幼児の車内放置はネグレクトの具体例とされています。

パチンコ中の放置による熱中症死や誘拐もネグレクトの結果とされるため、注意が必要です。

高齢の親の介護放棄(岡地倉敷支判令1・8・1)

寝たきり状態となった同居の母親(当時76歳)に対し、十分な食事や排泄処理を行わず、約1年間にわたりゴミが溜まった部屋に放置して重い床ずれを負わせた事例があります。

この事例では、同居して生活を支えていた子どもに保護責任があり、適切な介護や医療措置を怠ったとして保護責任者遺棄致傷罪が認められました。

介護疲れなどの過重な負担があったとしても、放置して怪我や危険が生じた場合は法的責任が問われます。

酔っ払いや薬物使用者を放置(東京高判平23・4・18)

一緒に麻薬(MDMA)を服用した相手が急性中毒に陥ったにもかかわらず、119番通報などの必要な救護を行わずに放置した事例があります。

この判例では、一緒に薬物を服用した経緯や救助できる状態にあったことから保護責任が認められました。

119番通報を行っていれば救命できた確実性までは立証されなかったため、致死罪ではなく保護責任者遺棄罪の成立が認められています。

ひき逃げ事故における不救護(名古屋地判平14・10・30)

酒に酔った同乗者を入れたまま事故を起こし、重傷の同乗者を病院へ連れて行かず自宅マンションに放置して死亡させた事例があります。

この裁判例では、交通事故を起こした運転手としての義務や、被害者を自分の管理下に置いたことによる保護義務を怠ったと判断されました。

逮捕によって失うもの

保護責任者遺棄容疑で警察に逮捕された場合、本人の刑事罰だけでなく、社会的、生活面で甚大な影響を受けるおそれがあります。

実名報道のリスク

保護責任者遺棄事件、特に子どもや高齢者が被害に遭った痛ましい事件は社会的な関心が非常に高く、ニュースやインターネット上で実名報道されるリスクが高いといえます。

一度実名で報道されると、インターネット上に情報が残り続けるため、社会復帰への障害となる可能性があります。

会社からの解雇・社会的信用の失墜

逮捕されると、送検や勾留により最長で23日間にわたり身体拘束が続く可能性があります。

長期間にわたり出勤できない状態が続くことで、無断欠勤や労務提供の不能とみなされ、勤務先から解雇される危険性が高まります。

また、地域社会や知人からの社会的信用を失う結果にもつながりかねません。

家族への影響

家庭の働き手が逮捕・長期拘束されることで、残された家族は経済的な困窮に追い込まれるおそれがあります。

さらに、実名報道や周囲からの偏見によって、子どもや家族が学校や地域で肩身の狭い思いをしたり、引越しを余儀なくされたりするなど、生活全体に深刻な影響を及ぼす場合があります。

保護責任者遺棄罪に関するよくある質問(Q&A)

Q. 保護責任者遺棄罪の時効は何年ですか?

保護責任者遺棄罪の時効は5年ですが、類似する犯罪はそれぞれ以下のようになります。

犯罪の種類公訴時効
保護責任者遺棄罪5年
保護責任者遺棄致傷罪10年
保護責任者遺棄致死罪20年
単純遺棄罪3年
救護義務違反(ひき逃げ)7年

Q. 執行猶予がつく可能性はありますか?

酌むべき事情が存在し、適切に主張できた場合は執行猶予がつく可能性があります。

保護責任者遺棄罪の法定刑は、3ヶ月以上5年以下の拘禁刑です。

刑法に基づき、言い渡される判決が、3年以下の拘禁刑であれば、裁判所の判断で執行猶予を付与することが法的に可能です。

初犯であることや、介護疲れなど同情すべき背景があること、真摯に反省していることなどを証明することが重要と考えられます。

Q. 保護責任者遺棄罪を問われそうな場合はどうしたらいいですか?

できるだけ速やかに刑事事件の対応実績が豊富な弁護士へ相談することをおすすめします。

保護責任者遺棄罪は、事件の背景や意図、状況によって、罪に問われるべきか否かの法的な判断が非常に繊細な罪種です。

捜査機関の取り調べに対して不適切な対応をしてしまうと、意図に反して悪質と捉えられ、身体拘束や実刑判決のリスクが高まってしまうケースがあります。

そのため、早期に弁護士へ相談し、適切なアドバイスを受けることを検討すべきです。

まとめ

今回は保護責任者遺棄罪の構成要件や判例などについて解説しました。

保護責任者遺棄罪は、親権者や介護者、事故当事者など、相手を保護すべき立場にある人が不保護や遺棄を行った際に問われる罪です。

したがって、警察から連絡がきたときや逮捕された場合には早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

複雑な対応や早期の身柄解放を目指す場合には、専門知識を持つ弁護士に依頼することを検討すべきです。

ご自身や大切なご家族を守るためにも、お早めに弁護士へ相談することをおすすめいたします。

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