給料の引き下げは不利益変更?違法性の確認と対処法
2026/08/06

企業に勤めているとき、給料の引き下げの打診を受けた経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、給料の引き下げは、労働契約の内容を労働者にとって不利に変更することにあたるため、法律上、厳しく制限されています。
本記事では、給料の引き下げは、不利益変更に当たるのか、違法性の確認と対処法について考えていきたいと思います。
給料の引き下げは原則違法!労働契約法のルール
結論からいうと、企業からの給料の引き下げは、不利益変更にあたるため違法行為になります。
企業労働者と雇用している企業には、立場的な優越があり、雇用者である企業が、その権限を労働者に対して濫用しないよう、労働基準法や労働契約法などで給料引き下げといった行為が厳しく制限されています。
実際に、労働契約法で、以下のような内容が定められています。
■8条:労働者および使用者は、合意によって労働契約の内容である労働条件を変更することができる
■9条:雇用は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働条件を変更することはできない
したがって、企業が同意を得ないまま、給料を引き下げた場合、その引き下げは無効となります。
また、労働者は企業に対し、引き下げ前の給料を請求することが可能です。
減給を受け入れざるを得ないケース
企業による一方的な給料の引き下げは原則として違法です。
しかし、以下のようなケースでは、労働者が減給を受け入れざるを得ないこともあります。
それぞれ確認していきましょう。
業績不振や経営悪化によるもの
労働者が、減給を受け入れざるを得ないケースとして、勤めている企業の企業業績が著しく悪化し、倒産の危機に瀕しているような場合が考えられます。
この場合、企業は経営上の理由による労働条件の不利益変更を行うことが可能です。。
ただし、業績不振であればどのような減給でも許されるわけではありません。
次のような要素が考慮され、総合的に判断されます。
- 経営危機の程度
- 減給を避けるための経営努力が十分に行われたか
- 減給の程度が適切か
- 労働者側との十分な協議が行われたか
労働者の給料の引き下げは、企業があらゆる経営努力を尽くした上での最終的な手段といえます。
したがって、企業から通達があったとしても、一方的に受け入れなければならないわけではありません。
疑問を覚えた場合には、弁護士に相談することを検討すべきです。
自身の能力不足や人事評価によるもの
労働者が、減給を受け入れざるを得ないケースとして、能力不足や人事評価によるものであることが考えられます。職能給などの能力連動部分のカットについては、人事考課の仕組みに基づいて一定の範囲内で適法になる可能性があります。
しかし、基本給の引き下げは、労働者の能力不足が理由であっても、認められないケースは少なくありません。
実際に、裁判などでも非常に厳しく判断されています。
基本給の引き下げには、客観的で合理的な理由と、社会通念上相当であると認められる具体的な根拠が必要となります。
理由として、評価者の主観や感情によって給料が上下するような運用は、労働契約の趣旨に反するからです。
したがって、企業から能力不足などを理由に給料を引き下げられた場合、自身の評価がどのような基準で行われ、どの部分が不足していると判断されたのかについて、具体的なデータの提示を求めるべきといえます。
役職変更や降格に伴うもの
労働者が給料引き下げを受け入れざるを得ないケースとして、役職の変更や降格に伴う場合があります。
企業は人事権を有しているため、どの役職に誰を配置するかは企自由に決定することができます。
したがって役職変更に伴い、そのポストの手当が支給されなくなるなどの理由での減給は、認められやすい傾向にあります。
ただし、降格そのものが嫌がらせや報復などの不当な目的で行われた場合や、人事権の濫用であったときには、降格自体が無効となり、それに伴う給料の引き下げも違法となります。
また、役職手当がなくなるだけでなく、基本給が連動して大幅に引き下げられるような規定になっている場合、その引き下げ幅によっては違法な引き下げに当たる可能性があります。
そのため、企業から、役職の変更を告げられた際には、その変更理由が客観的な業務上の必要性に基づいているのか、それとも合理性のない不当な決定であるのかを見極める必要があります。
懲戒処分によるもの
労働者が給料引き下げを受け入れざるを得ないケースとして、懲戒処分を受けたときが挙げられます。
懲戒処分としての減給は、問題行動をした労働者に対して企業が行使できる制裁のひとつといえます。
ただし、懲戒処分による給料引き下げは、労働者の行為の重大性と比較して、妥当性がなければなりません。
客観的にみて、処分内容が重すぎる場合は懲戒権の濫用として無効になります。
また、懲戒処分としての減給には、労働者の生活を守るために労働基準法によって以下のような制限が設けられています。
減給できる金額:通常1か月に支給される賃金の10分の1が上限
減給できる期間:一度の問題行動による減給は1か月のみ
給料引き下げを通知された場合の対処法
勤めている企業から給料の引き下げを通知された場合、以下のような対処を行ってください。
証拠を集めて事実関係を整理する|証拠リスト
企業から給料の引き下げを通知された場合の対処法として、証拠を集めて事実関係を整理し、証拠リストなどを作成することが挙げられます。
給料引き下げが不当であると主張するためには、客観的な証拠を集めることが重要です。
証拠がない状態では、外部の相談機関や弁護士も具体的なアドバイスをすることが難しくなります。
したがって、以下のような書類を収集してください。
- 雇用契約書や労働条件通知書
- 就業規則や賃金規程の写し
- 給料引き下げを通達する書面やメールの文面
- 減給の理由が説明された面談の録音データ
- 引き下げ前と引き下げ後の給与明細書
- 自身の業務実績や人事評価に関する資料
特に、面談時の録音は非常に強力な証拠となります。
スマートフォンの録音機能などを活用し、どのような説明がなされたのか、どのような口調で同意を迫られたのかを正確に記録に残しておくと後々の交渉を有利に進めやすくなります。
企業に減給の説明を求める
企業から給料の引き下げを通知されたときの対処法として、企業に減給の説明を求めることが考えられます。
具体的に説明を求めることとしては、以下の通りです。
- 給料が引き下げられる具体的な理由
- 給料が引き下げられる法律の根拠
上記の説明は、口頭でのやり取りだと、後々水掛け論に発展する可能性があります。
そのため、メールや書面など、証拠が残るかたちで回答してもらうことが大切です。
また、企業が給料の引き下げの通知とともに、労働者へ同意書や承諾書へのサインを求めることがあります。
このとき、内容に納得がいかない場合は、絶対にサインをしないでください。
一度サインをしてしまうと、給料の引き下げに同意したとみなされ、後から覆すことが困難になります。
労働者には、企業側が「全員にサインをもらっている」「会社の決まりだから」と迫ってきたとしても、拒否する権利があります。
同意をしないという意思を示すことが大切です。
専門の相談窓口に相談する
企業から給料の引き下げを通知されたときの対処法として、専門の窓口に相談することが考えられます。
労働者よりも企業の方が力が強いため、と直接交渉をしても納得のいく説明が得られないかったり、一方的に減給を強行されそうになったりというトラブルに発展することがあります。
このような場合、自力で対応するのではなく、外部の専門的な相談窓口を頼った方が良いと言えるでしょう。
労働問題を扱う公的な機関はおもに以下2つです。
総合労働相談コーナー
給料引き下げを相談できる窓口として、各都道府県の労働局や労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーがあります。
ここでは、法令違反に関する相談を受け付けているほか、労使間のトラブルを解決するための助言や指導、あっせんの手続きを提供しています。
労働組合(ユニオン)
給料引き下げを受けた場合の相談先として、労働組合(ユニオン)があります。
前提として、労働組合に加入している必要がありますが、相談すると企業と交渉を行い、撤回させるといったことが可能になります。
また、日本ではあまり利用されていませんが、最終手段としてストライキなどを決行することなども可能です。
法的措置を検討する|労働審判・訴訟
企業から給料の引き下げを通知されたときの対処法として、労働審判や訴訟の検討が考えられます。
労働審判は、労働問題に特化した裁判所の手続です。
原則として3回以内の期日で審判がくだるため、、通常の訴訟よりも早期の解決が期待できます。
一方、訴訟は、審判での内容が納得できないときに行う手続き、時間と費用がかかるものの、企業の違法性を厳格に追及し、確定的な判決を得ることができます。
これらの手段をとるためには法律の専門的な知識が必要となるため、弁護士のサポートを受けることが一般的です。
弁護士への相談のメリットと費用
企業から給料引き下げの通知を受けた場合弁護士に相談するメリットと費用について紹介します。
弁護士に相談することで得られるメリット
企業から給料引き下げの通知を受けた場合の弁護士に相談するメリットとして、その通知が違法かどうかを判断し、不当である場合未払い分の給与の請求を行えることが考えられます。
弁護士は、依頼者の方の置かれた状況 から企業に対してどのような主張を行えばよいのか、見通しを立てることができます。
また、代理人となって企業との交渉を一手に引き受けえうことが可能です。
さらに、企業との交渉が決裂した場合でも、労働審判や訴訟といった複雑な手続を弁護士にならば任せることができます。
これは大きなメリットといってよいでしょう。
弁護士への依頼にかかる費用
給料引き下げの問題を弁護士に相談や依頼をするにあたり、最も懸念されるのが費用の問題です。
現在、弁護士費用は自由化されているため、各弁護士事務所が独自に報酬基準を設定しています。
一般的な弁護士費用の内訳としては、以下のような項目があります。
■法律相談料:初回無料や30分5000円など
■着手金:事件に着手する際に支払う費用で、請求額の数パーセントなど
■報酬金:獲得できた金額に応じて支払う成功報酬で、回収額の10から20パーセントなど
■実費:郵送代や裁判所への印紙代など
費用面での不安を解消するためには、複数の事務所で相談を行い、それぞれの料金体系を比較検討することが大切です。
また、回収可能な金額が少ない場合は、書面作成のみを依頼するなど、費用を抑えるための柔軟な依頼方法を相談することも可能です。
給料引き下げに関するよくある質問(Q&A)
給料の引き下げ問題に関して、労働者から特によく寄せられる代表的な質問とその回答をまとめました。
自身の働き方や状況に当てはまるものがないか確認してください。
Q. パートやアルバイトでも給料の引き下げは違法になりますか?
パートタイマーやアルバイトといった非正規雇用の労働者であっても、一方的な給料の引き下げは原則として違法になります。
労働契約法や労働基準法などの労働関係法令は、雇用の形態に関わらずすべての労働者に等しく適用されるからです。
したがって、企業がシフトを入れる際に勝手に時給を引き下げたり、事前の合意なしに基本給を下げたりすることは許されません。
非正規雇用だからといって、企業の一方的な都合による減給を受け入れる必要は全くありません。
Q.賞与の引下げは違法になりますか?
賞与(ボーナス)の引き下げについては、毎月の基本給の引き下げとは異なり、違法かどうかの判断がやや複雑になります。
多くの企業において、賞与は会社の業績や個人の業績評価に連動して支給額が変動することが、あらかじめ就業規則や賃金規程に定められているからです。
そのため、就業規則に業績連動の規定があり、会社の業績悪化や評価の低下に基づいて算定された結果として賞与が下がったのであれば、それは原則として適法とみなされます。
しかし、就業規則に「一律に基本給の何ヶ月分を支給する」と確定的な支給基準が明記されているなどは、企業がそれを一方的に引き下げることは、不利益変更にあたる可能性が高くなります。
Q. 減給に同意しない場合、解雇される可能性はありますか?
給料の引き下げ提案を拒否したことだけを理由に、企業が労働者を解雇することは、法律上認められません。
日本の法律では、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権の濫用として無効になると定められています。
減給に同意しないからクビにする、という行為は、正当な解雇理由には一切あたりません。
そのため、もし減給を拒否したことで解雇を言い渡された場合、その解雇自体が違法・無効であると主張して、解雇の撤回や労働者としての地位確認、およびその期間の給料を請求することができます。
Q. 弁護士に相談する費用はどのくらいかかりますか?
弁護士に相談する際の費用は、相談のみの場合と、実際にトラブルの解決を依頼する場合で大きく異なります。
最初の法律相談だけであれば、30分あたり5000円程度が一般的ですが、最近では労働者向けの初回相談を無料で行っている弁護士事務所も多くあります。
実際に企業との交渉や労働審判を依頼する場合の着手金は、請求する金額の規模にもよりますが、10万円から30万円程度が目安となることが多いです。
そして、無事に給料を取り戻すことができた場合に支払う成功報酬金は、回収できた金額の10パーセントから20パーセント程度に設定されているのが一般的です。
具体的な費用プランは事務所によって異なるため、初回の無料相談などを利用して、事前に見積もりを出してもらうことが大切です。
法的な手続きを進めるにあたっては、経済的な負担を考慮しながら、得られるメリットとのバランスを冷静に計算することが大切です。
まとめ
今回は、給料引き下げは不利益変更に当たるのかについて紹介しました。
企業による一方的な給料の引き下げは、不利益変更に当たる可能性が高いため、労働者は説明を求めるなどの対応をすべきといえます。
とはいえ、企業に対し個人が主張することには限界があります。
そのため、困ったときには弁護士への相談を検討してください。




