【2026年10月義務化】カスハラ対策とは?労働施策総合推進法改正のポイント
2026/07/15

近年、顧客や取引先からの理不尽な要求などのカスハラが社会問題として大きく取り上げられています。
カスハラは、従業員の心身の健康を著しく脅かす要因となっています。
このような深刻な状況を重く見た政府は、労働施策総合推進法を改正することを決定しました。
この法改正により、企業に対してカスハラへの対策を法的に義務付ける方針が固まりました。
施行は2026年10月1日に予定されており、すべての企業が対象となります。
今回は、カスハラ対策の義務化について解説します。
2026年10月より企業のカスハラ対策が義務化
職場内におけるセクシャルハラスメントやパワーハラスメントについては会社が対策する法的な義務があります。
しかし、顧客や取引先といった外部の人間から受けるカスタマーハラスメントに対しては、明確な法的義務がありませんでした。
そのため東京都など条例が制定されている地域以外は、外部からの悪質なクレーム対応は各企業の自主的な判断に委ねられています。
このような、一企業の判断に委ねられている状況が、今回の労働施策総合推進法の改正により、大きく変化することになります。
カスハラに対する措置も企業の法的義務として明確に位置づけられることになります。
企業は従業員を理不尽な攻撃から守るための体制整備を怠った場合、国からの行政指導の対象となるリスクを負います。
改善が見られない場合には企業名が公表される可能性もあり、社会的な信用を大きく失う事態に直面します。
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?
カスハラとは、顧客や取引先などからのクレームや要求のうち、その内容が妥当性を欠くものを指します。
あるいは、要求を実現するための手段や態様が社会通念上不相当なものもこれに含まれます。
この不当な行為によって、労働者の就業環境が害される状況がカスハラとして認定されます。
すべてのクレームが悪というわけではなく、正当な権利行使との線引きをいかに明確にするかが企業にとっての大きな課題となります。
企業は顧客の声を真摯に受け止める一方で、理不尽な攻撃からは従業員を徹底して守る基準を設ける必要があります。
厚生労働省によるカスハラの定義
厚生労働省が策定したマニュアルなどによると、カスハラは明確な基準で定義付けられています。
顧客等からのクレームや言動のうち、当該要求の内容の妥当性に照らして不相当なものが対象となります。
具体的には、要求を実現するための手段や態様が社会通念上不相当なものであり、労働者の就業環境が害されるものとされています。
ここで言う顧客等には、店舗を訪れる一般消費者だけが含まれるわけではありません。
企業間取引における取引先の担当者や、行政機関の窓口を利用する市民なども広く対象となります。
さらに、病院の患者や学校の保護者など、事業に関わるあらゆる相手方が含まれます。
カスハラに該当しうる言動の具体例
カスハラに該当するかどうかは、個別の事案ごとに前後の文脈を含めて総合的な判断が求められます。
厚生労働省は、企業が現場で判断しやすいように具体的な行為の類型を分類して提示しています。
それぞれの具体的な言動を確認していきましょう。
言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの
社会通念上許容される範囲を超える言動とは、顧客からの要求の内容自体に正当性がない場合を指しています。
企業が提供した商品やサービスに一切の欠陥やミスがないにもかかわらず、一方的な理由で金銭的な補償を要求する行為がこれに該当します。
企業の規定や法律の範囲を完全に逸脱した、過剰な特別扱いを強要することも許されません。
商品とは無関係な個人的な不満を理由に、理不尽な謝罪を求めるようなケースも該当します。
根拠のない金銭の要求や、規定を外れた無償サービスの要求などは、企業としての対応義務を超えています。
このような不当な要求は、対応を強要される従業員に過度な精神的負担を強いることになります。
手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの
相手方の言い分に一定の正当性があったとしても、要求の手段や態様が社会通念上許容される範囲を超える場合、カスハラに該当します。
たとえば購入した商品が壊れていたという正当なクレーム理由であっても、その伝え方が暴力や暴言を伴うものであれば許容されません。
従業員を大声で怒鳴りつけたり、脅迫的な言葉を使用したりすることは、社会通念上許容される範囲を逸脱しているとみなされます。
さらに、直接的な暴力がなくとも、従業員の人格を否定するような言動や、インターネット上での悪質な書き込みなどは、労働者の尊厳を著しく傷つける行為です。
正当なクレームとの違いは?
企業にとって顧客からの正当なクレームは、自社の商品やサービスの品質を向上させるための貴重な意見といえます。
したがって、正当なクレームとカスハラの違いは、要求の妥当性と手段の相当性という観点から明確に区別されなければなりません。
たとえば、消費者が購入した食品に異物が混入していた場合、商品の交換や返金を求めるのは消費者の正当な権利の行使です。
しかし、返金に加えて法外な慰謝料を要求したり、担当者の解雇を執拗に迫ったりなどといった言動は、不当要求といえるでしょう。
カスハラが深刻化する現状と法改正の背景
近年、小売業や宿泊業などの顧客と直接接するサービス業を中心にカスハラの被害が急増しているといわれています。
スマートフォンの普及により、誰もがいつでも匿名で企業や従業員を攻撃しやすくなったことも被害を拡大させています。
消費者の権利意識が過剰に高まり、自らの要求が通らないことに対して過激な反応を示す人々が増加していることも背景にあります。
従業員がこのような理不尽な攻撃を継続的に受けると、強い精神的ストレスを抱え込みます。
企業にとっても、育成に時間とコストをかけた貴重な人材の流失は経営上の大きな打撃となります。
このような深刻な事態を受け、国としても労働者の安全と健康を保護するために法改正を行うことを決定しました。
改正労働施策総合推進法の概要
労働施策総合推進法は、労働者が働きやすい環境を整備し、企業と労働者の良好な関係を構築するための包括的な法律です。
これまでの度重なる改正によって、パワハラやセクハラに対する防止措置が企業に義務付けられてきました。
今回の改正では、長年の懸案であった顧客等からの著しい迷惑行為に起因する問題への対応が新たに組み込まれることになりました。
企業は従業員からの相談に真摯に応じ、適切に対応するための相談体制の整備を行うことが求められます。
さらに、その他の雇用管理上必要な措置を講じる義務を負うことになります。
施行日は2026年10月1日
改正労働施策総合推進法のカスハラに関する規定は、2026年10月1日から全面的に施行されます。
過去の法改正で見られたような、中小企業に対する適用猶予期間などは設けられており、すべての企業が一斉に義務化の対象となります。
そのため、人事などの担当者は施行日までに企業は社内の規定を改定し、相談窓口を設置し、従業員への教育を完了させておく必要があります。
企業に義務付けられるカスハラ対策
厚生労働省が定める指針に基づき、企業は大きく分けて5つの分野で対策を講じることが求められます。
カスハラ対策は、合計で10項目の措置として義務付けられることになります。
1. 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
カスハラ対策として企業が行うべきことは明確な方針の策定です。
経営層が率先して、以下のメッセージを発信することが望ましいと言えます。
労働者を保護する方針を明確化し啓発する
企業はカスハラを決して許容せず、理不尽な攻撃から労働者を守る基本方針を明確にしなければなりません。
この方針は単に紙の書類を作成しておくだけでは意味がありません。
社内報への掲載や朝礼での発表、全社集会での説明など、複数の手段を用いて繰り返し伝えることが重要です。
カスハラへの対処内容を定め、周知する
カスハラの基本方針を定めたら、組織としてどのように対処するのかという社内規程を整備します。
具体的には、カスハラに該当する行為の判断基準や、発生時の報告の方法などが記載してあるマニュアルを策定することです。
カスハラの対応手順をまとめたマニュアルは、すべての従業員がいつでも閲覧できるように保管しておきます。
2. 相談(クレーム)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
企業がお粉なうべきカスハラ対策として、被害を受けた従業員が安心して相談できる体制を整備することです。
具体的に確認していきましょう。
相談窓口を設置し、労働者に周知する
企業はカスハラに関する社内外の相談窓口をあらかじめ設置しなければなりません。
相談窓口の存在や担当者の連絡先、受付時間などを就業規則に明確に記載することが求められます。
ポスターとして休憩室に掲示するなどして、周知徹底を図る必要があります。
直属の上司自身が対応に消極的であるなど、上司には相談しにくいケースも想定しておく必要があります。
相談担当者が適切に対応できる体制を整える
カスハラ対策は、相談窓口を設置するだけでは十分ではなく、窓口の担当者が適切にヒアリングを行える実務的な体制が必要です。
被害者の心理的負担に配慮した傾聴のスキルや、客観的な事実確認の進め方などに関する専門的な教育を定期的に実施します。
事案が深刻で現場の判断が難しい場合には、法務部門や産業医などと速やかに連携できるフローを構築しておきます。
3. 事後の迅速かつ適切な対応
カスハラ対策として、実際に事案が発生した場合に、被害の拡大を最小限に食い止めるための組織的な行動を決めておくことです。
確認していきましょう。
事実関係を迅速かつ正確に確認する
従業員からカスハラの相談を受けた企業は直ちに事案の調査を開始し、客観的な事実関係を正確に把握する義務があります。
いつ、どこで、誰が、どのような行為を行ったのかを詳細に記録することが重要です。
被害を受けた従業員からの聴取だけでなく、現場に居合わせた他の従業員からの証言も集め、多角的に状況を分析してください。
防犯カメラの映像や通話の録音データ、やり取りしたメールの履歴など、客観的な証拠を速やかに保全することが非常に重要です。
被害者へ配慮措置を適正に行う
カスハラを受けた従業員は、恐怖や怒りといった強い精神的ストレスを抱えている可能性が高いです。
そのため、企業としては従業員のケアを実施する必要があります。
産業医や提携しているカウンセラーによる面談の機会を速やかに提供し、心理的な回復を専門的な見地から支援します。
被害者の希望や心身の状況に応じて、一時的な配置転換を行ったり十分な休養期間を与えたりする措置を講じます。
再発防止に向けた措置を講ずる
カスハラ事案が収束した後、企業は再発防止のため、根本的な原因を分析する必要があります。
現在の接客マニュアルに不備はなかったか、店舗の防犯設備は十分であったかなど、多角的な視点から見直しを実施します。
また、社内で発生した事例を個人情報に配慮しつつ共有し、同様のトラブルに遭遇した際の対応方法について全社的に研修を行います。
4. 対応の実効性を確保するための抑止のための措置
悪質なカスハラに対しては企業として断固たる措置を講じる体制を構築することが重要です。
カスハラが、暴力行為や長時間の監禁、悪質なネット上の誹謗中傷など、もはや犯罪に該当しうる行為であった場合の対応方針を事前に定めておく必要があります。
現場の従業員だけに孤独な対応を強いるのではなく、一定の基準を超えた事案には管理者が速やかに介入する仕組みを構築します。
また、顧客に対する一切の対応を打ち切る基準や、施設への立ち入り禁止措置を講じる基準を明確にしておくことも大切です
5. その他併せて講ずべき措置
カスハラ対策の制度を企業が適切に運用し、従業員が安心できるよう、基本的なルールを確立する必要があります。
それぞれ考えていきましょう。
相談者等のプライバシーを保護する
カスハラなどで相談窓口を利用した従業員や事実確認のためのヒアリングに協力した関係者のプライバシーは、厳格に保護されなければなりません。
相談内容や個人の氏名が意図せず社内に漏洩することがないよう、情報管理体制を徹底し、保護してください。
また、相談窓口の担当者には守秘義務があることを社内規程で明確に規定し、誓約書などを提出させることが大切です。
相談等を理由とする不利益な取扱いを禁止し、周知する
カスハラの被害を会社に申告したことや調査に協力したことを理由として、企業が従業員を不当に扱うことは、法律で禁止されます。
したがって、企業はカスハラ対策として、不利益取り扱い禁止の方針を就業規則などに明記し、全従業員に対して周知徹底を図る必要があります。
努力義務とされる企業の取り組み
カスハラ対策には法的義務として最低限満たさなければならない要件ではありませんが、企業がより実効性の高い対策を講じるために推奨されている取り組みがあります。
どのような取り組みなのか確認していきたいと思います。
他の事業者への協力
カスハラ対策の努力義務として、自社の従業員が他社の施設やオフィスなどで業務を行う場合、その他社の事業主が行うハラスメント対策に積極的に協力することがあります。
派遣労働者を受け入れている場合は、派遣先企業として派遣労働者の安全を守るための措置を講じるとともに、派遣元企業と迅速に情報共有を行います。
企業間の連携を強化し自社の利益だけでなく互いの労働者を守り合うという広い視野を持った姿勢が重要となります。
自社の従業員が加害者とならないための配慮
自社の従業員がカスハラ加害者となってしまわないよう教育を行うことは、企業の努力義務とされています。
社会人としての基本的なマナーや相手の立場を尊重する態度について社内研修などを通じて継続的な啓発を行います。
自社の労働環境を守るだけでなく社会全体からあらゆるハラスメントをなくすための主体的な取り組みが企業に求められています。
望ましいとされる取り組み
カスハラ対策の努力義務として、各業界団体などが業界特有の事情を考慮して策定するガイドラインを参考にし、自社の実態に即したより高度で専門的な対策を導入することがあります。
カスハラに詳しい弁護士などの外部の専門機関と顧問契約を結び、いつでも適切なアドバイスを受けられる体制を構築しておくことも非常に有効です。
同業他社と積極的に情報交換を行い地域で問題となっている悪質なクレーマーに関する情報を共有することで被害を未然に防ぐ試みも多くの業界で検討されています。
カスハラ対応で注意すべきポイント
カスハラ対策を進めるにあたって、注意すべきポイントがあります。
具体的に確認していきたいと思います。。
障害のある顧客等への合理的配慮との関係
カスハラ対応において注意すべきポイントとして、障害者差別解消法に基づく合理的配慮とのデリケートな関係があります。
顧客の激しい言動や突発的な行動が障害の特性に起因するものである場合、それを直ちに不当な行為と断定し対応を拒絶することは適切ではありません。
聴覚に障害のある方が自分の声の大きさを把握できずに大声で話しかけてきたりするケースなどが考えられます。
これらの事案に対しては相手の特性を理解しようとする姿勢を持ち、建設的な対話を通じて双方が納得できる対応方法を模索することが求められます。
障害を理由としてサービスの提供を拒否するなど不当な取り扱いを行うことは法律で固く禁じられており、現場には慎重な判断が必要となります。
録音・録画時の個人情報の取り扱い
カスハラの事実確認を正確に行うために電話の内容を録音したり、店舗の防犯カメラで映像を録画したりする行為は情報管理上の注意すべきポイントとなります。
顧客の肉声や顔が映った映像は、個人情報保護法において保護されるべき個人情報に該当する可能性が高いです。
企業がこれらのデータを取得する際には、あらかじめ利用目的を公表しておくか録音の開始時に本人に通知する手続きが必要です。
店舗の入り口の目立つ場所に防犯カメラ作動中というステッカーを貼ったり、電話の自動音声でサービス向上のために録音する旨を伝えたりする対策が必須となります。
また、取得したデータは鍵のかかる場所やセキュリティの施されたサーバーで厳重に管理し、目的外の利用や第三者への漏洩を徹底して防ぐ管理体制を行うことが大切です。
警察や弁護士との連携
悪質性が高く対応が長期化するカスハラ事案においては、企業単独での解決が困難になるため外部機関との連携が重要なポイントとして挙げられます。
従業員への直接的な暴力行為や生命に危害を加えるような脅迫など、明らかに犯罪を構成する行為に対しては迷わず直ちに警察に通報する体制が必要です。
不当な金銭要求が執拗に続く場合やインターネット上の匿名掲示板での悪質な書き込みなどに対しては、法的な見地から弁護士に相談し、対応を委任することが有効な解決手段となります。
求職者等に対するセクハラ対策も義務化
今回の労働施策総合推進法の改正のタイミングに合わせて、男女雇用機会均等法などの関連法案の改正も同時に行われています。
これにより自社の従業員だけでなく、就職活動中の学生やインターン生に対するセクハラ対策も企業の義務として明確化されました。
採用面接という密室の場で、面接官が候補者に対して不適切な質問をしたり圧倒的に優位な立場を利用して個人的な関係を迫ったりする悪質な行為が厳しく問われることになります。
企業は社内の従業員に対するハラスメント対策を講じるだけでなく、自社の求人に応募してくる外部の人々を守るための公正な体制も同時に整備しなければなりません。
採用活動に関わるすべての社員に対して、ハラスメントに関する高い倫理観を求める教育が必須となります。
まとめ
今回はカスハラ対策の義務化について解説しました。
2026年10月に施行される労働施策総合推進法の改正により、カスハラ対策は企業の努力目標ではなく避けて通ることのできない法的な義務となります。
自社の大切な従業員を外部からの理不尽な要求や悪質な暴力から守り抜くことは、企業が果たすべき当然の社会的責任であり経営上の最重要課題の一つと言っても過言ではありません。
義務化に向け、カスハラ対策のマニュアルなどを策定したい場合には、弁護士へ相談することを検討してください。




