人身売買・人身取引の成立要件と刑罰

2026/10/31

人身売買・人身取引の成立要件と刑罰

人身売買や人身取引は個人の尊厳を侵害する犯罪であり、国際的にも厳しい目が向けられています。

本記事では、刑法における成立要件や科される刑罰の重さ、起訴された際の影響などを整理して確認していきます。

人身売買・人身取引とは?

人身売買や人身取引は、ひとをモノのように売買したり、自由を奪って意に沿わない労働や性的搾取を強いたりすることを指します。

日本の法律で、人身売買や取引などを行うと、次のような罪に問われる可能性があります。

それぞれ確認していきましょう。

人身売買罪

人身売買罪とは、対価を得て、または対価を支払って、ひとに対する不法な支配関係を移転させる行為を取り締まる罪です。

人身売買罪における利益は、金銭の授受に限らず、借金の取り消しや、物を対価とすることも含まれます。

人身売買の目的・手口

現代社会における人身売買はおもに以下のような目的で行われます。。

  • 風俗店などでの性的搾取
  • 工場や農作業現場での過酷な強制労働
  • 偽装結婚

対象が外国人の場合は、好待遇な求人情報で勧誘して日本へ入国させ、その後に旅券や身分証明書を取り上げるといった手口が考えられます。

また、SNSを利用して家出中の未成年者に近づき、生活の面倒を見る口実で支配下に置き、第三者へ引き渡す事案も発生しています。

略取・誘拐罪との違い

人身売買罪に似た犯罪として、略取罪や誘拐罪といった犯罪が定められています。

これらはいずれもひとの生活環境を奪い、自己や第三者の支配下に置く点で共通しています。 

しかし、人身売買罪と略取・誘拐罪では成立に至る手段や行為の性質において以下のような違いがあります。

罪名行為の態様・特徴
略取罪暴行や脅迫を用いて無理やり支配下に置く行為
誘拐罪騙したり甘言で誘惑したりして判断を誤らせ、支配下に置く行為
人身売買罪対価を伴ってひとの支配関係を売り渡し、または買い受ける行為

人身売買罪の成立要件と刑罰

人身売買罪は、以下のような条件によって、適用される条文が分かれ刑罰の重さも段階的に変化します。

  • 対象となる相手の年齢
  • 売買の目的
  • 場所の移動

それぞれ確認していきましょう。

成人を買う行為

自分や第三者の支配下に置くために、お金などの対価を支払って成人を買い受ける行為を行った場合の刑罰は、3か月以上5年以下の拘禁刑です。

金儲けや性的目的といった特定の動機がなくても、対価を払って人を引き取った時点でこの罪が適用されます。

成立要件は以下の通りです。

  • お金や物品などの対価と引き換えに相手を引き取ること
  • 相手の自由を奪い、自分の影響下におくこと
  • 口頭での約束だけでなく、実際に身柄の引き渡しが行われること

未成年者を買う行為

人身売買罪は、18歳未満の未成年者を買い受けた場合、成人を買った時よりも刑罰が重くなります。

法定刑は3か月以上7年以下の拘禁刑です。

未成年者が対象の売買行為が成人よりも重い処罰が規定されている理由は、心身ともに未発達であり、被害者本人で正しい判断を下すことが難しいからです。 

親などの親族から買い取る行為はもちろん、知人などから対価を支払って子どもを引き取る行為もすべて処罰の対象になります。

営利・性的・結婚・身体への危害目的で買う行為

ひとを買いとる行為が、以下のような危害目的で行っった場合、刑法で処罰されます 。

  • 金儲けの目的(働かせて利益を得る動機など)
  • 性的な目的(性行為の相手にしたり対象にしたりする動機)
  • 結婚の目的(無理やり夫婦として生活させる動機)
  • 身体を傷つける目的(暴行や傷害を加える、臓器を無断で摘出する動機など

上記のケースの法定刑は、1年以上10年以下の拘禁刑です。 

また、相手が危害目的を持っていると知りながらひとを売り渡した側も、同様の刑罰を科されることになります 。

国外へ人を売買する行為

外国へ連れ出す目的でひとを売買した場合、2年以上の有期拘禁刑という重い罪に問われます。

法律上、刑期の上限は原則20年と決まっているため、実際には2年以上20年以下のあいだ刑務所に入ることになります。

また、そのほかの罪に問われており、実際に有罪となったときには、上限は20年から30年に引き上げられます。

日本から外国へ送り出すケースはもちろん、外国から日本へ連れてくる場合もふくまれます。

厳しい罰が規定されている理由は、一度国境を越えてしまうと、警察や関係機関が被害者を助け出す作業が難しくなるためであると考えられています。

未遂や予備も処罰の対象

人身売買に関する犯罪は、未遂罪が規定されています。

そのため、実際に取引が最後まで完了しなかった場合でも、人身売買の意思表示をした時点で未遂罪が成立しえます。

具体的なケースとして、人を買う目的でお金を支払って相手を引き取ろうとしたものの、警察が駆けつけて引き渡しが防がれたときが考えられます。

なお直接的にひとを売買する行為をしていなくても 、人身売買の計画を立てたり、売買された被害者を車で運んだりしたときには、共同正犯やほう助とみなされ罪に問われることがあります。

人身売買・人身取引の事例

人身売買や人身取引は遠い世界の出来事ではなく、現代の日本国内でも実際に摘発事例があります。

ここでは、2つの事例を紹介したいと思います。

事例①:来日した未成年者に対する性的搾取

実の母親とともに来日したタイ国籍の12歳の少女が、母親の帰国後に東京都内の個室マッサージ店に置き去りにされ、性的な接客を強いられていた事件があります。

この事件では、母親が対価を得て子どもを預けた疑いがあり、実の親によって子どもが売買・搾取の対象とされた人身取引の実態が浮き彫りとなりました。

言葉も通じず助けを求められない環境下で被害に遭うなど、現代の人身取引は悪質で巧妙な手口で行われています。

未成年者を買い受けたり、性的な搾取の目的で支配下に置いたりする行為は刑法で重く処罰される重大な犯罪です。

事例②:悪質ホストクラブによる売掛金と売春強要の事例

悪質ホストクラブにおいて、高額な飲食代金を負担させ、返済能力を大幅に超える多額の借金を背負わせる事案が相次ぎました。

女性客の恋愛感情や立場の弱さにつけ込み、売掛金の返済を名目に売春を強いる悪質な手口も、新たな人身取引の方法として注目されています。

代金を回収する目的で女性をスカウトや風俗店に引き渡し、売春を強要して利益を吸い上げる行為が社会問題化しています。

政府も取り締まりの対象として明記しており、関係省庁や警察が連携して取り締まりと法的な規制の強化を進めています。

人身売買・人身取引に関するよくある質問

人身売買や取引の罪に関してよくある質問をまとめてみましたので、確認してみてください。 

Q.家族が逮捕された場合すぐに面会できますか?

逮捕されてから勾留が決定するまでの最初の最大72時間は、家族であっても警察署での面会が認められません。

さらに、人身売買事件では共犯者との口裏合わせや証拠隠滅を防ぐ目的で、裁判所から接見禁止命令が出されるケースが一般的です。

接見禁止が付いている間は、勾留期間中であっても一般の方の面会や手紙のやり取りが全面的に禁じられます。

Q.弁護士費用はどれくらいかかりますか?

刑事弁護を法律事務所へ依頼した場合にかかる費用の総額は、事件の複雑さや争点によって異なります。

人身売買の場合、複雑な事件になることが想定されるので、着手金50万円~100万円程度で、プラスして実費や成功報酬がかかることになると思います。 

また、事実関係を認めて被害者との示談を目指すのか、それとも無罪を主張して徹底的に争うのかによって活動量が大きく変わります。

示談金の相場はいくらくらいですか?

人身売買における示談金の相場は一律に決まっているわけではなく、被害者が被った身体的・精神的な苦痛の程度によって変動します。

人身売買の事件はその態様が深刻なものであるとみなされるため、財産犯などと比べて高額化しやすいといえます。

強制労働や過酷な環境での拘束を伴う事案では、100万円から300万円程度が一つの基準になります。

また、性的搾取を目的とした売買や未成年者を対象とした悪質な事案では、300万円から500万円以上、場合によってはそれ以上の金額を提示しなければ示談がまとまらないこともあります 。

被害者の処罰感情が強い場合は金銭提示だけで解決を図るのは困難であり、誠心誠意の謝罪と適切な条件提示を粘り強く重ねる必要があります。

公訴時効はありますか?

人身売買罪にも公訴時効があり、行為の重さに応じて5年から10年の期間が定められています。

大人や18歳未満の人を買い受けただけの場合は5年、営利やわいせつなどの目的で売買した場合は7年、国外に移送する目的で売買した場合は10年です。

ただし、犯人が国外にいた期間は時効の進行が止まるため、古い事件でも時効が成立していないことがあります。 

まとめ

人身売買や人身取引は、ひとの自由を奪う犯罪として刑法で重く処罰されます。

未成年者を対象としたり金儲け目的で行ったりした場合は刑罰がさらに重くなり、未遂であっても処罰の対象です。

もし人身売買に関わってしまった際は、すぐに刑事事件を扱う弁護士へ相談し、早いうちにサポートを受けましょう。

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刑事事件は、動き出しの早さで結果が変わります。被害者の連絡先はご本人には開示されないため、示談交渉には弁護士が必要です。示談が成立すれば、不起訴となり前科がつかない可能性もあります。

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