個人事業主と法人の違いは?メリット・デメリットで比較
2026/08/05

事業を始めたい場合、フリーランスなど個人事業主で行うか、法人を設立するか、2つの方法があります。
今回は個人事業主と法人の違いやメリット・デメリットについて紹介していきたいと思います。
個人事業主と法人の違い
個人事業主と法人の違いは以下の通りです。
1. 設立・廃業の手続きと費用
個人事業主と法人の違いとして、設立や廃業の手続きや、費用が考えられます。
具体的な違いを以下の表でまとめてみましたので確認してみてください。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 設立の手続き | 税務署への書類提出のみ | 定款作成と法務局への登記申請が必須 |
| 設立の費用 | 一切不要 | 登録免許税や定款認証などの法定費用が発生 |
| 廃業の手続き | 税務署への書類提出のみ | 解散登記および清算結了登記が必須 |
| 廃業の費用 | 一切不要 | 官報公告費用や解散登記の登録免許税が発生 |
個人事業主の場合、法人に比べ、手続きが少ないため、簡単に開始することができます。
一方で法人の設立の手続きは、登記簿に載るため、設立するにあたりさまざまな準備を行う必要があります。
まず、法人の基本規則である定款を作成する必要があります。
株式会社の場合は、公証役場で定款の認証を受ける手続きも必要です。
その後に法務局で設立の登記申請を行います。
廃業の手続きにも専門的な知識と時間が必要です。
事業を停止する解散登記と財産を整理する清算結了登記が必須となります。
廃業の費用として官報公告費用などが最低でも数万円単位で発生します。
2. 税金の種類と税率
個人事業主と法人の違いとして、事業から生じる利益に対して課される税金の種類と税率があります。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 適用される税金 | 所得税および個人住民税 | 法人税および法人住民税など |
| 税率の計算構造 | 5パーセントから45% | 23.2パーセント、中小法人(※)の場合年800万円以下は15% |
| 税負担の上限 | 累進課税なので利益の増加に伴い青天井で上昇する | 一定の利益水準で税率が頭打ちになる |
※中小法人は資本金1億円以下
個人事業主の利益には所得税が直接課せられます。
所得税は超過累進課税制度という仕組みを採用しています。
事業の所得が多くなればなるほど適用される税率が段階的に引き上げられます。
所得税と住民税を合算すると最高税率は非常に高い水準に達します。
法人の利益には法人税等が課せられます。
法人税の税率は所得税のような累進構造を持っていません。
基本的には一定の割合でかける比例課税に近い構造で計算されます。
利益水準が一定の額を超えると法人のほうが全体の税負担割合は軽くなります。
3. 経費にできる範囲
個人事業主と法人の違いとして、経費として計上できる対象があります。
具体的には以下の表のとおりです。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 経営者自身の給与 | 経費として認められない | 役員報酬として全額経費に算入できる |
| 自宅兼事務所の家賃 | 事業使用割合に基づく家事按分が必須 | 社宅制度の活用により大部分を経費化できる |
| 出張時の日当 | 経費として認められない | 出張旅費規程に基づき定額を経費化できる |
| 経営者の生命保険料 | 生命保険料控除の枠内に限定される | 一定の要件を満たせば保険料を経費化できる |
個人事業主は、事業を行ううえで、直接必要であった費用のみを経費にできます。
たとえば自宅をオフィスとする場合、面積や時間に基づく合理的な基準で家事按分を行う必要があります。
また、個人事業主自身に対する給与を事業の経費として差し引くことは法律上不可能です。
法人は事業を行うことのみを目的とした独立している存在であるため、経営者個人と別の人格であるとみなされます。
したがって経営者自身への給与も役員報酬として会社の経費に算入できます。
また、法人名義で賃貸契約を結べば社宅として家賃の大部分を会社の経費として処理できます。
さらに、出張旅費規程を適正に設けることで非課税の出張手当を支給することも可能です。
4. 社会的信用度と資金調達
個人事業主と法人の違いとして社会的信用度と資金調達があります。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 資金調達の基本手段 | 金融機関からの負債による借入のみ | 借入に加えて株式発行による資本増強が可能 |
| 投資家からの出資 | 実務上出資を受け入れる枠組みがない | 株式を引き受けてもらう形で出資を受けられる |
| 社会的信用度 | 限定的であると評価されやすい | 相対的に高い評価を受けやすい |
| 大手企業との取引 | 社内規程により取引が制限される場合がある | 組織形態を理由とした取引制限は受けにくい |
個人事業主の資金調達は原則として金融機関からの借入に限られます。
一方で、法人の資金調達は、借入に加えて株式を発行して出資を募る増資という手段があります。
したがって、事業拡大を狙い、将来的に多額の資金調達を予定している場合は法人の形態が必須条件です。
また、社会的信用度に関しても法人が有利であるといえます。
大企業の中にはコンプライアンスの観点から個人事業主との直接取引を制限している企業は少なくありません。
しかし、法人であれば、企業への営業活動の障壁が取り除かれます。
5. 責任の範囲|無限責任と有限責任
個人事業主と法人の違いとして 責任の範囲の違いがあります。
具体的に確認していきましょう。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 責任の範囲 | 無限責任を負う | 出資者は有限責任を負う |
| 個人の私有財産 | 事業の負債に対する返済義務の対象となる | 原則として会社の負債の返済対象とならない |
| リスクの性質 | 経営者個人に事業の全リスクが直接及ぶ | 自身が拠出した出資額の範囲内に限定される |
個人事業主は事業の債務に対して無限責任を負います。
事業用の資金が枯渇した場合は、個人の預貯金や不動産を処分して返済する義務があります。
一方、法人の出資者の場合、形態にもよりますが、原則として有限責任という法的な保護を受けます。
会社が倒産して多額の負債が残った場合でも責任は、出資した資本金の範囲にとどまります。
個人の私有財産を投じて会社の負債を肩代わりする法的義務は出資者にはありません。
ただし、経営者個人が銀行借入の連帯保証人となった場合は、責任を負うことになるので注意が必要です。
6. 社会保険の加入義務
個人と法人の違いとして、社会保険の加入義務に関するルールがあります。
以下、違いを表にまとめましたので確認してみてください。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 加入義務の判定 | 従業員数や対象業種により複雑に異なる | 設立した時点で全社的に強制加入となる |
| 加入する保険制度 | 国民健康保険および国民年金 | 健康保険および厚生年金保険 |
| 保険料の負担方法 | 個人が全額を自己負担する | 労使折半により法人が半額を法定福利費として負担する |
個人事業主は従業員数を雇用していなかったり、特定の業種の事業を行っていたりしたときには社会保険への加入義務がありません。
そのため、事業主も従業員もそれぞれ個別に国民健康保険と国民年金に加入します。
一方、法人は事業の規模や売上高にかかわらず、法律により社会保険の強制適用事業所となります。
代表取締役一人のみの会社であっても法人として加入する義務が発生します。
社会保険料は労使折半という仕組みで納付するため、法人は従業員の給与から天引きする額と同額を法定福利費として、負担しなければなりません。
7. 赤字の繰越期間
個人事業主と法人の違いとして、事業で生じた赤字の繰越期間があります。
繰越欠損金とは、当該年度の赤字を将来の黒字と相殺して税金を減らすことができることをいい、期間の長さは、将来の税負担額に直接的な影響を及ぼします。
具体的な要件等を表にまとめたので確認してみてください。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 税務申告の条件 | 青色申告の承認を受けていること | 青色申告の承認を受けていること |
| 赤字の最長繰越期間 | 最長3年間まで可能 | 最長10年間まで可能 |
| 税負担の軽減効果 | 短期的な効果にとどまる | 長期的な節税効果を見込める |
上記の表で確認できるとおり、個人事業主が青色申告を行っている場合における赤字の繰越期間は最長3年間です。
一方、法人が青色申告を行っている場合における赤字の繰越期間は最長10年間となります。
10年間にわたって将来の黒字と過去の赤字を相殺できる法人税制の方が制度としては優遇されているといえます。
8. 会計・経理の負担
個人事業主と法人の違いとして、会計や経理の負担があります。
以下、確認するとわかる通り、法人の会計処理は個人事業主と比較して、厳格であるため高度な専門知識が必要であるといえます。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 会計処理の厳密さ | 比較的緩やかな基準が許容される | 会社法等に基づく極めて厳密な処理が求められる |
| 決算書類の作成 | 市販ソフト等により自力で対応可能 | 専門的な計算書類や附属明細書の作成が必須 |
| 税理士への依頼 | 事業主の判断により任意 | 申告書の複雑さから事実上必須となる |
個人事業主は年に一回の確定申告により税務処理を行います。
会計ソフトを使用すれば簿記の基礎知識のみで自力で処理することが十分可能です。
法人の会計は会社法および法人税法に則った厳密な複式簿記の記帳が求められます。
したがって、期末には貸借対照表や損益計算書に加えて株主資本等変動計算書などの複雑な計算書類を作成しなければなりません。
これは、大きな違いといえます。
9. 事業承継のしやすさ
個人事業主と法人の違いとして、事業承継のしやすさがあります。
以下のように、事業を第三者や親族の後継者に引き継ぐ際の実務的な手間に大きな違いがあります。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
| 事業承継の基本方式 | 設備等個別の資産を一つずつ譲渡する | 会社の発行済株式を譲渡する |
| 手続きの複雑さ | 非常に複雑であり多大な時間を要する | 株式譲渡契約のみで完結し非常にシンプル |
| 許認可等の引き継ぎ | 属人的なものであるため原則として取り直しが必要 | 法人が保有しているためそのまま引き継げる |
個人事業主の事業承継は事業を構成する個別の資産および負債の譲渡という形をとります。
そのため、店舗の賃貸借契約や車両の名義などを一つ一つ新事業主へ名義変更しなければならず、手続きが複雑になりがちです。
また、許認可事業である場合、必要な許認可も個人に紐付いているため、原則として新事業主が新規に取得し直さなければなりません。
一方、法人の事業承継は会社の所有権である株式を後継者に譲渡することで、手続きが完了します。
法人名義で取得した許認可や取引先との契約関係も法人格が存続する限り、そのまま引き継ぐことができます。
個人事業主から法人化する3つのメリット
個人事業主から法人化をする場合、以下3つのメリットがあります。
1. 節税効果が期待できる
個人事業主から法人化によるメリットとして、税務上の節税効果が期待できる点です。
一定の所得を超えた場合、個人の所得税よりも法人税の方が納税すべき税金を低く抑えることができます。
また、法人化して自身に役員報酬を支払う形をとると、法人側の損金として経費になるため法人税の課税対象から外れます。
また、同時に受け取った個人の所得税計算において給与所得控除という非課税枠を適用できるため、節税効果を見込めます。
2. 社会的信用が高まり、事業が拡大しやすくなる
個人事業主から法人化をするメリットとして、社会的信用が高まり事業が拡大しやすくなることがあります。
実務上の商慣習において資本金が登記された法人が取引上優遇される場面は多くあります。
企業間取引においてコンプライアンスの観点から個人事業主との新規口座開設を規定で制限する大企業は少なくありません。
法人化することでこうした大企業への営業アプローチが可能になり、利益を拡大できる可能性が高くなります。
3. 決算月を自由に設定できる
個人事業主から法人化を行うメリットとして、算月を自由に設定できることが考えられます。
自社の業界特有の繁忙期を避けて決算作業の時期を設定することで事務負担を平準化できることが期待できます。
年間を通じて最も資金繰りに余裕がある時期の直後に納税のタイミングを合わせるという財務戦略も可能です。
設立第1期の期間を最長化して消費税の免税期間の恩恵を最大限に確保できる決算日の設定も有効な手段といえます。
法人化で注意すべきポイント
法人化を進める上で事前に注意すべきポイントは以下が考えられます。
設立費用と維持コストがかかる
法人化するときに注意すべきポイントとして、設立時の初期費用と継続的な維持コストがかかることがあります。
設立時に法務局へ納付する登録免許税や公証役場での定款認証手数料などの実費が発生します。
また、法人は、事業の黒字赤字に関わらず継続的な税金コストが生じます。
その代表的なものが法人住民税の均等割と呼ばれる地方税です。
法人住民税の均等割は、事業が赤字であっても本社を登記している自治体に対して毎年数万円の税額を支払う義務があります。
会計・事務手続きにおける費用負担が増える
法人化するときに注意すべきポイントとして日々の会計や事務手続きの負担に留意することがあります。
法人は厳格な会社法の下に運営されるため役員の変更や本店の移転の都度法務局での登記手続きと法定費用が発生します。
また、決算処理は高度な専門性が求められるため税理士へ支払う顧問料という継続的なランニングコストが生じえます。
さらに、登記手続きを正確に行うために司法書士への報酬も必要となる場面が多くなるため注意が必要です。
社会保険への加入が必須になる
法人化するときに注意すべきポイントは、社会保険の加入が必須になることです。
社会保険料は、役員報酬や従業員の給与の総額に対して。高い料率の社会保険料が毎月発生します。
従業員の雇い入れをするたびに、社会保険料の負担が大きくなるので、計画的に雇用を進めておく必要があります。
法人化はいつすべき?
事業が軌道に乗ったときの法人化のタイミングとして、以下が考えられます。
利益が800万〜900万円を超えたとき
法人化のタイミングとして、個人の事業から生じる利益が800万から900万円を超えたときがひとつの指標となります。
この水準は個人の超過累進課税による所得税と法人の一定税率による法人税の税負担額が逆転する目安のラインとなります。
この利益ラインを超過すると所得税の適用税率が高い水準になります。
課税売上高が1000万円を超えたとき
法人化のタイミングとして、年間の課税売上高が1000万円を超えたときが挙げられます。
個人事業主は年間の課税売上高が1000万円を超過するとその翌々年から消費税の課税事業者としての納税義務が生じます。
この課税事業者となるタイミングで法人設立を行うと、設立した法人は一定の要件のもと最大2年間は消費税の免税事業者となることができます。
これにより消費税の納税を合法的に免除される期間を延長することが可能です。
事業拡大や資金調達を本格的に考えるとき
外部資本を入れた事業拡大やベンチャーキャピタルからの資金調達を本格的に考えるときが最も重要な法人化のタイミングです。
資金調達の交渉が開始される半年程度前には法人化を済ませておくことが望ましいといえます。
法人形態の選び方
日本の会社法において法人を設立する際の実質的な選択肢は株式会社と合同会社に絞られます。
それぞれ確認していきましょう。
株式会社が向いているケース
将来的に証券取引所への株式公開を目指す場合は、株式会社を選択すべきといえます。
また、外部のベンチャーキャピタルや個人投資家から株式の発行による資金調達を行う場合も株式会社の形態が必須です。
合同会社が向いているケース
初期費用を極力抑えて小規模なビジネスを展開したい場合、合同会社が適しているといえます。
合同会社は、公証役場での定款認証手続きが不要であり、法務局へ支払う登録免許税も株式会社と比較して安価に設定されています。
したがって、投資家からの資金調達を予定しておらず、自己資金のみのビジネスモデルに向いているといえます。
個人事業主と法人の違いに関するよくある質問
個人事業主と法人の違いに関して、よくある質問について確認していきましょう。
Q. 個人事業主と法人を兼業できますか?
個人事業主と法人の代表を兼業することは法律上可能です。
しかし、個人事業の業務内容と法人の事業目的が明確に区分されていることが条件となります。
実態が同じ事業であるにもかかわらず利益を調整する目的で売上を付け替える行為は税務調査で否認される恐れがあるので注意してください。
Q. 法人化したら、儲けたお金は自由に引き出せますか?
法人化した後に会社の事業口座に入金された売上を個人の生活費として自由に引き出すことはできません。
法人と経営者個人は法律上完全に独立した別個の人格として扱われます。
法人の銀行口座にある資金の所有権は会社に帰属しており、経営者個人の資産ではありません。
Q. 一人でも法人は作れますか?メリットは?
出資者および役員が経営者一人のみである法人を作ることは会社法上、認められています。
株式会社も合同会社も取締役一名のみを発起人として設立登記を行うことができます。
ただし、社団法人や財団法人などの場合、一人で設立できません。
Q. 専門家に相談した方がいいですか?
法人化を検討する段階において、早期に税理士や司法書士などの専門家への相談することをおすすめします。
設立の最適なタイミングや持株比率などの資本政策に関して一度実行した法務手続きを後から修正することは極めて困難です。
将来の増資や事業売却における致命的な違反を防ぐためには事業計画策定の段階で相談した方が良いといえるでしょう。
まとめ
今回は、個人事業お主と法人の違いについて比較していきました。
個人事業主から法人成りをしたい、会社を設立したいという方は、税理士や司法書士などの専門家へ相談することを検討してください。




