秘密保持契約書(NDA)の書き方や締結の流れ

2026/06/24

秘密保持契約書(NDA)の書き方や締結の流れ

自社の持つ独自の技術や顧客リストなどの情報は、事業の競争力を左右する極めて重要な資産です。

本記事では、秘密保持契約書の書き方や締結の流れ、確認すべきポイントなどについて解説します。

秘密保持契約書(NDA)とは?

秘密保持契約書とは一般に公開されていない情報を他者に開示する際、その情報を第三者へ開示したり、定められた目的以外に使用したりすることを禁止する契約を指します。

英語のNon-Disclosure Agreementの頭文字をとってNDAと呼称されることも多く、ビジネスの場において最も頻繁に交わされる契約書のひとつです。

締結の場面

秘密保持契約書が利用される具体的な場面は、おもに以下のようなものが考えられます。

締結の場面具体的な状況と目的
業務提携の検討新たな事業を立ち上げるため、他社と業務提携の可能性を検討する初期の段階。双方が持つ顧客データや市場調査の結果を共有し、シナジーが見込めるかを判断する際には締結が必須。
新製品の共同開発外部の企業と共同で新製品の開発を行うにあたり、自社の持つ技術ノウハウや設計図などの機密情報を相手方に開示する場面。
企業買収(M&A)の検討企業買収を検討している買主候補者に対し、対象企業の財務状況や人事情報などの詳細な内部データを開示してデューデリジェンスを受けさせる場面。
システム開発の委託自社の業務システムの開発を外部のベンダーに委託する際、システムの仕様や運用状況に関する情報を相手方提供する場合。

上記のような場面で、契約書を交わすことなく情報を開示してしまえば、相手方によって情報が同業他社に転売されたり、自社のビジネスモデルを模倣されたりするリスクが生じます。

したがって、他社に自社の秘密情報を伝える場合には、必ず秘密保持契約を結ぶべきといえるでしょう。

締結のタイミング

秘密保持契約書を締結する適切なタイミングは、具体的な情報を相手方に開示する前です。

早期に本交渉を行いたいという焦りから、「とりあえず情報を出して、後で契約書を巻こう」と考えるのはリスクの高い判断であるため避けてください。

秘密保持契約を締結せずに相手方へ渡した情報は、どのように扱われるかコントロールすることができなくなります。

したがって、初回のミーティングで概要を話し合い、互いに一歩踏み込んだ具体的な数字や技術情報を共有しようとする段階で、真っ先にこの契約書を交わす手順をとるべきです。

どちらが作成すべき?

秘密保持の契約書作成は、情報を開示する側が雛形を用意するのが一般的です。

開示側が用意する理由として、自社のどのような情報をどこまで厳密に守りたいのかを明確に把握しているためです。

双方が相互に情報を開示し合う取引においては、どちらか一方が作成した雛形をベースに、互いに修正案を出し合いながら妥当な内容へと調整していくことになります。

したがって、情報開示の条件などの交渉を優位に進めたい場合には、自社で雛形をあらかじめ用意しておくべきといえるでしょう。

機密保持契約書・守秘義務契約書との違い

企業間取引では、企業秘密を他社に開示する場合、機密保持契約や守秘義務契約などといった名称の契約書を締結します。

機密保持と守秘義務は秘密保持義務と法的に同じ性質や目的を持っています。

企業によって好んで使用される用語が異なるだけであり、名称の違いによって効力が変わることはありません。

重要なのは名称ではなく、契約書の中にどのような権利と義務が規定されているかという実質的な内容です。

CAとの違い

NDAと並んでよく見かける略称にCA(Confidentiality Agreement)があります。

これも英語圏で使用される秘密保持契約の別称であり、NDAと本質的な違いはありません。

外資系企業や海外との取引においてはCAという表現が好まれる傾向がありますが、日本の国内取引においてはNDAと呼ばれることが多いです。

秘密保持契約書(NDA)の3つのメリット

秘密保持契約書のメリットについて考えていきましょう。

情報資産の保護

秘密保持契約を結ぶメリットとして、情報資産の保護があります。

自社の貴重な情報資産を取引相手以外の第三者の手に渡らせないようにすることが秘密保持契約の目的のひとつです。

情報開示者は、業務上の必要性からやむを得ず情報を開示するのであって、それが目的外に使用されることは全く想定していません。

そのため、開示を受けた相手方が、その情報を無断で同業他社に漏らしたり、自社の競合となるような新商品の開発に勝手に流用したりすることを法的に封じ込めます。

情報の利用範囲を特定の目的に限定し、資産の流出を防ぐことは大きなメリットといえます。

信頼関係の構築

秘密保持契約を締結するメリットとして取引相手との信頼関係の構築が考えられます。

自社の機密情報を開示するときに、秘密保持契約を締結することは、互いの情報を尊重し合うというビジネス上の信頼関係を構築する機能を持っています。

ルールを共有することで、「この相手にならば安心して自社の内情を話すことができる」という心理的な安全性が生まれます。

結果として、より深く核心を突いた議論が可能となり、業務提携や共同開発の成功確率を高めることに繋がります。

法的リスクへの備え

秘密保持契約を締結するメリットとして、法的リスクに対して備えになる点が考えられます。

相手方の故意・過失により、自社の情報が外部に漏洩した場合、秘密保持契約の中に損害賠償責任の条項が盛り込んであれば、その損害額を請求する根拠となります。

契約に基づく明確な義務違反を理由とすることで、相手方に対して損害の賠償を請求したり、情報の使用の差し止めを求めたりする法的手続きを円滑に進めることが可能です。

秘密保持契約書(NDA)の書き方

企業間取引で、実際に秘密保持契約書を作成する際、どのような条項を盛り込むべきなのでしょうか。

ここでは、甲と乙が業務提携の検討を行うために相互に情報を開示するケースを想定し、入れるべき条項を確認していきたいと思います。

目的の明確化

秘密保持契約を結ぶ場合、契約書の冒頭において、何のために情報を開示し合うのかという目的を明確に記載します。

条項例は以下となります。

■条項例

 甲と乙は、甲乙間の〇〇の分野における業務提携の可能性を検討することを目的として、相互に開示する秘密情報の取扱いに関し、秘密保持契約を締結する。

契約の目的を記載することは法的な必須要件ではありません。

しかし、契約の目的を明記することで、目的外使用の禁止条項が機能するようになります。

情報開示の目的の記載が広範すぎると相手方に情報を自由に利用されるリスクがあります。

また、狭すぎると本来の業務検討に支障をきたす可能性があるため、具体的な場面を想定した適切な表現が求められます。

秘密情報の定義

秘密保持契約に盛り込むべき条項として秘密情報の定義が考えられます。

自社が他社に開示する情報のうち、何を秘密情報として保護するのか、明確に定義します。

定義づけには、以下2つの方法があります。

  • 開示する一切の情報を秘密とする方法
  • 秘密であると明示した情報のみを秘密とする方法

前者は開示側に有利であり、後者は情報管理の負担を減らしたい受領側に有利な規定です。

なお、以下のようにもともと秘密として保護する必要のない情報を例外として除外する規定を設けるのが一般的です。

  1. 開示を受けた時点ですでに受領者が保有していた情報
  2. 開示を受けた時点ですでに公知であった情報
  3. 開示後に受領者の責任によらずに公知となった情報
  4. 正当な権限を持つ第三者から適法に取得した情報
  5. 受領者が独自に開発した情報

秘密保持義務

秘密保持契約で必ず盛り込むべきものとして、秘密保持義務条項があります。

秘密保持義務とは、情報の受領者に対し秘密を保持し、第三者に開示または漏洩してはならないという義務のことです。

ただし、業務の検討を進める上で、弁護士や公認会計士といった専門家や、自社の役員などに情報を共有しなければならないケースもあります。

したがって、合理的に必要な範囲で例外規定を設けるのが一般的です。

情報を開示した第三者に対しても、本契約と同等の秘密保持義務を課し、もしその第三者が漏洩させた場合には、情報受領者が直接責任を負うという形にしておくことが重要な手順となります。

目的外使用の禁止

秘密保持契約には、開示した情報の目的外使用を禁止する条項を盛り込んでください。

この条項がなければ、相手方が自社と競合する事業を立ち上げるために情報を流用したとしても、契約違反を問うことが難しくなります。

不正競争防止法による保護(営業秘密)を受けるためのハードルは高いため、契約によって図利加害目的での使用を独自に封じ込めることが大切です。

秘密情報の返還・廃棄

秘密保持契約書には、契約の終了、あるいは契約が解除された場合の秘密情報の返還や廃棄に関する条項を盛り込む必要があります。

情報開示者の指示に従い、保有する秘密情報をすべて返還または廃棄することを義務付けることで、情報漏洩のリスクを下げることが可能です。

また、廃棄が確実に行われたことを担保するため、情報受領者に対して「返還または廃棄したことを証明する書面」の提出を求める規定を入れておくことも大切です。

有効期間と残存条項

秘密保持契約書には契約有効期間にゃ、残存条項を定めます。

情報は期間の経過とともに陳腐化のスピードに合わせて、1年から5年程度で設定されることが多く見受けられます。

重要なのは、契約期間が満了した後であっても、すでに開示された情報の秘密保持義務や損害賠償義務などは引き続き効力を持たせることです。

これを残存条項と呼び、「第〇条の規定は、本契約終了後も引き続き効力を有する」といった形で明記しておいた方がよいといえます。

損害賠償

秘密保持契約に盛り込むべきものとして損害賠償条項があります。

相手方が契約に違反して情報を漏洩させ、自社に損害が生じた場合の賠償責任について規定します。

損害の範囲には、実損害だけでなく、トラブル対応のために要した合理的な範囲の弁護士費用も含める旨を記載しておくことを検討してください。

差止請求

秘密保持契約には差止請求に関する条項をいれるのが一般的です。

差止請求とは、情報が漏洩しそうになっている、あるいは目的外使用が行われようとしていることが発覚した場合に、その行為をやめさせるための規定のことです。

「情報開示者は、違反するおそれがある場合には、その差止めを求めることができる」と明記することで、事後的な金銭賠償だけでなく、被害の発生や拡大を物理的に防ぐための法的な根拠とすることができます。

合意管轄

秘密保持契約には万が一紛争になったときに備え、管轄の裁判所を指定を行います。

通常は、情報を開示する側の本店所在地を管轄する地方裁判所を「第一審の専属的合意管轄裁判所」として指定し、自社が遠方に出向く負担を回避します。

秘密保持契約書をレビューするときの5つのポイント

相手方から秘密保持契約書の雛形が提示された場合、自社の不利益になる条項が隠れていないか、レビューする必要があります。

具体的な5つのポイントについて考えていきたいと思います。

ポイント1:秘密情報の範囲

秘密保持契約をレビューするときのポイントとして、相手の雛形が「開示する一切の情報を秘密とする」という広範な定義になっていないかがあります。

もし自社が情報を受け取る側である場合、保護すべき情報が限定されていないと社内の管理負担が過大になり、意図せぬ義務違反に問われるリスクが高まります。

したがって、「秘密であると明示された情報のみを対象とする」という文言への修正を求めることが大切です。

ポイント2:開示できる第三者の範囲は適切か|関連会社・専門家など

秘密保持契約をレビューするときのポイントとして、外部に情報を提供することがあるかどうかの確認を行うことです。

自社がプロジェクトを進めるにあたり、親会社や子会社、あるいは外部のコンサルタントに情報を共有する場合、相手の雛形に「第三者への開示を一切禁ずる」という決まりがあると、業務の遂行に支障をきたします。

したがって、必要な関係者が「開示を許される第三者」の中に含まれているかを精査し、不足があれば追加を要求することが大切です。

ポイント3:有効期間・残存条項

秘密保持契約のレビューポイントとして、有効期間や残存条項の定めの確認です。

まず、有効期間が自社のビジネスサイクルに適しているかを確認します。

また、残存条項が「永久に秘密を保持する」といった非現実的な長期間になっていないかなどを確認する必要があります。

自社にとって有効期間や残存条項が不利な場合には、情報の価値が失われる期間を想定し、修正を求めることが重要です。

ポイント4:損害賠償の範囲

秘密保持契約をレビューするときのポイントとして損害賠償の範囲が過大なものでないかどうかがあります。

相手の雛形に、「情報受領者は、情報開示者に生じた直接かつ通常の損害に限り賠償する」といった、責任の範囲を限定するような文言が含まれていることがあります。

もし自社が情報を開示する側であれば、このような制限は受け入れず、あらゆる損害を賠償させるように修正を求めるよう交渉を行ってください。。

ポイント5:知的財産権の帰属の明確化

秘密保持契約は、業務上開示する情報の取り扱いについての契約であって、開示された知的財産の情報を利用するようなものではありません。

したがって自社が開示した情報を情報受領者が新たな発明や改良を行わないよう、権利帰属に関する一文を契約内に盛り込んでおくべきといえます。

秘密保持契約書(NDA)締結の具体的な流れ

秘密保持契約書を締結するまでの流れは以下の通りです。

それぞれ確認していきましょう。

1.契約書の作成・準備

秘密保持契約書を他社と結ぶ場合、まずは契約書を作成するための準備をします。

プロジェクトの概要が見えてきた段階で、自社の法務部門や顧問弁護士と協議し、自社に有利な秘密保持契約書のドラフトを作成してください。

情報を開示する方向が一方のみなのか、もしくは双方の企業が行うのかによって、適切なテンプレートが異なるので適切に判断する必要があります。

2.内容のレビュー・交渉

秘密保持契約のドラフトが完成したら、相手方に送付し内容の確認を求めます。

相手方から修正の要望(赤入れ)が戻ってきた場合は、自社の譲れない権利と妥協できる点を考慮し、再修正案を提示します。

3.署名・押印による締結

秘密保持契約の内容に、双方が内容に合意したならば、契約書を2通作成し、両社を代表する権限を持つ者が署名または記名押印を行います。

これで具体的な機密情報の開示をスタートさせることができる状態となります。

書面契約 ・電子契約|締結方法と注意点

最近の企業間取引の契約形式は従来の紙ベースから電子ベースへと移行しつつあります。

それぞれの締結方法と注意点について確認していきましょう。

書面で締結する場合

紙の契約書に押印する場合、会社の代表印(実印)を用いるようにしてください。

担当者レベルの印鑑の場合、後にトラブルとなった場合に、決裁権限がないと主張されるリスクがあるので注意が必要です。

また、契約書が複数ページにわたる場合は、差し替えや改ざんを防ぐために、ページの間に契印(割印)を忘れずに押すことを忘れないでください。

電子契約で締結する場合

電子契約はクラウドサインなどのサービスを利用することで、郵送の手間を省き、即座に契約を締結することが可能になります。

ただし、システム上の承認ボタンは決裁権限を持つ者が押す必要がある点には注意が必要です。

トラブルになったときに、承認したときのアクセスログが証拠となるため、代理させるのではなく、決裁権限を持つ者に正確に操作する体制を整えておきましょう。

秘密保持契約書(NDA)に関するよくある質問(Q&A)

企業間取引で必要な秘密保持契約に関する質問について回答しましたので確認してみてください。

Q. 双務契約と片務契約の違いは?どちらを選ぶべきですか?

双務契約は、当事者双方が相互に情報を開示し合い、お互いが秘密保持義務を負う形式です。 

したがって、共同開発や業務提携など対等な関係で情報を出し合う場合に締結すべきといえます。

一方の片務契約は、一方だけが情報を開示し、受け取る側だけが秘密保持義務を負う形式です。 システム開発の委託など、自社の情報だけを提供する場面で用いられます。

自社が情報を受け取る側でもあるのに片務契約を結んでしまうと、自社の情報が守られなくなるため、情報の流れを正確に把握して選択することが重要です。

Q. 収入印紙は本当に不要ですか?

はい、秘密保持契約書は、印紙税法で定められた課税文書のいずれにも該当しないため、収入印紙を貼る必要はありません。

ただし、契約書の中に業務委託の対価や継続的な取引の基本となる条件などが一緒に記載されている場合には、第2号文書や第7号文書に該当し、印紙が必要となることがあります。

純粋に秘密情報の取り扱いのみを定めた契約書であれば、印紙代は不要であると認識して問題ありません。

Q. 業務委託契約書と秘密保持契約書(NDA)は両方必要ですか?

業務委託契約書の中に、秘密保持に関する条項が十分に盛り込まれていれば、別途NDAを結ぶ必要はありません。

しかし、業務委託の具体的な内容が固まる前に、事前検討として情報を開示しなければならない場合には、まずNDAを単独で先行して結ぶことが実務上の常識となっています。

その後の取引の進展に合わせて、適切な契約書を重層的に整備していくことが求められます。

Q. 従業員やフリーランスと結ぶ際の注意点は?

自社の従業員や退職者に対しても、会社の営業秘密を守らせるために誓約書という形で秘密保持契約を結ぶことが一般的です。

フリーランスと結ぶ際には、相手が個人事業主であるため情報管理体制が甘くなりがちである点に注意が必要です。

個人のパソコンでの情報保管方法や、公共のWi-Fiでの作業禁止など、より具体的なセキュリティ基準を定めておくことが有力な対策となります。

Q. 3社間以上で契約はできますか?

はい、複数の企業が共同で一つのプロジェクトに参加する場合など、3社以上で一つの秘密保持契約書を締結することは法的に可能です。

誰が誰に対して情報を開示し、誰が義務を負うのかを複雑にならないよう明確に定義することが求められます。

Q. 海外の企業と締結する場合の注意点は?

海外企業とのNDAでは、どの国の法律を基準に解釈するか(準拠法)、トラブルになった際にどこの国の裁判所や仲裁機関で争うか(専属管轄)という条項が極めて重要になります。

自国に有利な条件を設定できるよう、国際法務に精通した弁護士にレビューを依頼してください。

まとめ

今回は秘密保持契約について紹介しました。

秘密保持契約書(NDA)は、企業の生命線である情報資産を守り、安全に他社との協業を進めるための大切な契約です。

目的外使用の禁止や損害賠償の範囲など、テンプレートの各条項が持つ意味を正確に理解し、自社に不当なリスクがないかを精査することが求められます。

契約内容の解釈や交渉に不安を感じる場合は、弁護士に相談することを検討してください。

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