相続放棄で失敗したくない方へ|決断できない人のための手続き・費用・期限
2026/05/30

家族が亡くなったときに必ず直面すべき問題として、遺産を承継するかどうかがあります。
日本の相続では承継すべきかどうかを決める期限が定められています。
そのため、決断を先送りしていると思いがけない負債を抱え込んでしまうリスクがあります。
本記事は、相続放棄を検討している方へ手続きの流れや期限などについて紹介していきたいと思います。
相続放棄とは?まず知っておきたい3つの選択肢
相続が発生した場合、相続人は以下3つの選択肢のいずれかを選ばなければなりません。
- 単純承認
- 限定承認
- 相続放棄
それぞれどのような特徴があるのか確認していきましょう。
単純承認:財産も借金もすべて承継する
単純承認とは、被相続人が残した現預金、不動産などのプラスの財産と借金などのマイナスの財産を無制限に承継する方法をいいます。
単純承認を特別な手続きは不要であり、法律で定められた熟慮期間という期間のあいだに他の手続きをとらなければ自動的に単純承認をしたものとみなされます。
また、熟慮期間が経過しなくても、被相続人の遺産を売却したり、ご自身の財産から借金の一部を支払ったりした場合も、法定単純承認が成立します。
限定承認:プラス財産の範囲内で借金を返済する
限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の限度においてのみ、被相続人の借金を返済する条件付きの承認方法です。
借金がいくらあるか分からない場合などに利用を検討します。
また、限定承認にはどうしても手元に残しておきたい不動産などを相続人が優先的に買い取ることができる先買権があります。
この点は限定承認の大きな特徴といえるでしょう。
ただし、限定承認を行うには相続人全員の同意を得て家庭裁判所に申し立てる必要があります。
さらに、相続人のうちの誰かが相続財産清算人に就任しなければなりません。
相続財産清算人は財産調査や債権者への通知、換価分割など遺産の清算手続きを行い、それを家庭裁判所に報告する義務を負います。
手続きが非常に煩雑であるため、実務上利用されるケースは少ないと言えます。
相続放棄:財産も借金も一切引き継がない
相続放棄とは、被相続人の財産に関する権利と義務をすべて放棄する手続きのことをいいます。
最初から相続人ではなかったものとみなされるため、プラスの財産もマイナスの財産も承継できなくなります。
また、家庭裁判所での厳格な手続きが必要であり一度受理されると原則として撤回できないため、慎重な判断が求められます。
相続放棄すべきか決断できない方へ|判断のポイント
相続放棄は1回行うと、特別な事情がない限り撤回ができない手続きです。
したがって迷っているときには、以下の3つを基準として判断してみると良いかもしれません。
【判断基準1】被相続人に多額の借金がある場合
相続放棄を行うべきかの判断基準として被相続人の債務がプラスの財産を上回っているときが考えられます。
事業の失敗などの理由による多額の債務が存在する場合、単純承認をしてしまうと、相続人は自身の財産からこれらを返済する義務を負います。
被相続人の債務の全容が不明な場合は、JICCやCICなどの信用情報機関に情報の開示請求を行い、客観的な借入状況を確認することが大切です。
【判断基準2】空き家など管理が負担な財産がある場合
相続放棄を行う場合の判断基準として残された財産に資産価値が低く管理負担が大きいときが考えられます。
地方の実家や、買い手がつかない山林など、経済的な価値よりも維持管理の手間や税金の負担が大きい不動産がある場合、相続放棄することを検討した方がよいかもしれません。
所有したまま放置して建物が倒壊し、他人に被害を与えた場合には損害賠償責任を問われるリスクもあるため注意が必要です。
【判断基準3】相続トラブルに巻き込まれたくない場合
被相続人が複数の家族関係を持っていたり、兄弟間で激しい対立があったりする場合、遺産分割協議は長期化し、精神的な疲労をもたらします。
少しの財産を得るために裁判を争うよりも、初めから相続放棄をして権利関係から身を引く方が、自らの生活の平穏を保つための賢明な選択となるケースもあります。
【注意】安易な相続放棄は危険!しない方が良いケース
一時の感情的な理由で相続放棄を選択すると、後になって後悔する可能性があります。
借金があると思って相続放棄した後に、実は高額な不動産や隠し口座が存在したことが判明したなどの場合、撤回は基本的に認められないので承継することはできません。
したがって、相続財産調査の前に相続放棄をすすめることは、避けるべきといえるでしょう。
期限は自分が相続人だと知った日から3ヶ月
相続放棄には熟慮期間と呼ばれるタイムリミットが存在します。
民法915条1項によれば、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
この起算点は、被相続人が死亡した日ではなく、自分が相続人になったという事実を認識した日になります。
期限を過ぎてしまったら?諦める前に確認すべきこと
3ヶ月の熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として単純承認とみなされ、借金を背負うことになります。
しかし、一定の条件を満たせば、3ヶ月経過後でも例外的に相続放棄が認められる場合があります。
最高裁判所の判例(昭和59年4月27日)によれば、以下の事情が認められれば、起算点がずれる、あるいは延長されると解釈されています。
- 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていたこと
- そう信じたことについて、相当な理由があること
たとえば、疎遠だった親の借金について、死後数年経ってから突然債権者からの督促状が届いて初めて知ったようなケースです。
このような事案では、督促状が届いて借金の存在を認識した日を起算点として、そこから3ヶ月以内であれば受理される可能性が高いといえます。
ご自身で手続きを行うのは難しいため弁護士に相談しながら進めた方がよいといえるでしょう。
期限に間に合わない場合は期間の伸長をしよう
相続財産調査に時間がかかるなど、3ヶ月以内に相続放棄の可否の判断を下すことが難しい場合は、熟慮期間の伸長という手続きを利用できます。
期限が到来する前に、家庭裁判所に対して伸長の申し立てを行うことで、さらに1ヶ月から3ヶ月程度の猶予を得ることが可能です。
時間が足りないと感じたときには、検討してみてください。
【4つのステップ】相続放棄の手続きの流れ
相続放棄は以下のような手順で進みます。
STEP1:必要書類の収集
相続放棄を行う場合、まず家庭裁判所に提出するための公的な書類を集めます。
被相続人との関係性によって収集する書類は異なりますが、おおむね以下の表のとおりです。
| 申述人の順位 | 共通の基本書類 | 追加で必要となる戸籍関係書類 |
| 配偶者および第1順位 | 申述書、申述人の戸籍謄本、被相続人の住民票除票、収入印紙800円、郵便切手 | 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本 |
| 第2順位 | 申述書、申述人の戸籍謄本、被相続人の住民票除票、収入印紙800円、郵便切手 | 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本および死亡している先順位者の戸籍謄本など |
| 第3順位 | 申述書、申述人の戸籍謄本、被相続人の住民票除票、収入印紙800円、郵便切手 | 第2順位までの追加書類に加え、被相続人の父母や祖父母などの死亡の記載がある戸籍謄本など |
STEP2:相続放棄申述書の作成・提出
家庭裁判所に提出する書類をそろえたら、相続放棄申述書を裁判所からダウンロードなどをして必要事項を記入します。
申述書には、おもに以下の事柄を記載します。
- 被相続人との関係
- 相続の開始を知った日
- 相続放棄の理由
- 財産の概略
作成した申述書と収集した戸籍などをまとめ、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ郵送または持参して提出します。
STEP3:家庭裁判所からの照会書への回答
相続放棄の申し立てから1週間から2週間程度が経過すると、家庭裁判所から申述人の自宅宛てに照会書という郵便物が届きます。
これは、申述人の真意を確認し、誰かに強制されて放棄しているのではないか、あるいはすでに財産を処分して法定単純承認に該当していないかを確認するための重要な書類です。
質問事項に対して正直かつ簡潔に回答し、署名捺印をして速やかに裁判所へ返送してください。
STEP4:相続放棄申述受理通知書の受領
返送した照会書の内容に問題がなければ、数日から1週間程度で家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書という書類が送られてきます。
この通知書が手元に届いた時点で、法律上の相続放棄の手続きが完了したことになります。
債権者から借金の督促があった場合には、この通知書のコピーを提示することで、法的な返済義務がないことを証明できます。
相続放棄にかかる費用
相続放棄の手続きには、裁判所に納める実費と専門家に依頼する場合の報酬という2つの費用が発生します。
自分で行う場合と弁護士や司法書士に依頼する場合にかかる費用をそれぞれ確認していきましょう。
自分で手続きする場合の費用
相続放棄の手続きをすべて自分で行う場合、裁判所に支払う実費や戸籍謄本などの取得費などのみなので、費用は数千円程度で済みます。
裁判所に支払う費用としては以下のような費用があります。
- 申述書に貼付する収入印紙代:800円
- 裁判所からの連絡用に使用する郵便切手代:数百円程度
- 戸籍謄本を取得するための手数料:数千円程度
経済的な負担は少ないですが、平日の日中に役所や裁判所とやり取りする時間と手間がかかります。
司法書士・弁護士などに依頼する場合の費用相場
被相続人の兄弟姉妹であったり、次順位以降の相続人になる者も含めて全員相続放棄を希望したりしている場合、必要書類の収集が非常に煩雑になります。
そのため、家族関係や被相続人との関係が疎遠などという場合には、弁護士や司法書士に相続放棄の手続きを依頼した方がいいといえます。
書類の作成と提出のみを代行できる司法書士に依頼する場合、費用相場は3万円から5万円程度です。
一方、債権者への対応や他の相続人との交渉までを含めて包括的な代理を任せられる弁護士に依頼する場合は、5万円から10万円程度が目安となります。
3ヶ月の期限を過ぎてしまっている難易度の高い事案では、法的根拠に基づく上申書の作成が欠かせないため、専門家への依頼が有力な解決策となりえます。
相続放棄で失敗しないための7つの重要注意点
相続放棄を検討した場合、以下の6つの注意点があります。
それぞれ確認していきましょう。
注意点1:被相続人の財産を処分しない
相続放棄を予定している場合、被相続人の財産に一切手をつけてはなりません。
預金を解約して自分の口座に移す、車を売却する、未払いの借金を被相続人の財布から支払うといった行為は、法定単純承認に該当します。
形見分けについても、経済的価値の高い時計や宝石などを持ち帰ることは単純承認したとみなされる可能性があるので注意してください。
注意点2:相続放棄の撤回は原則できない
相続放棄を行う際の注意点として原則撤回できない点です。
一度家庭裁判所で受理された相続放棄は、たとえ熟慮期間内であっても、自己都合で撤回することは許されません。
「借金だらけだと思っていたら、後から多額の預金が見つかったのでやっぱり相続したい」という主張は法的に認められません。
他人に騙されたり脅されたりして放棄させられた場合など、法律に基づく取り消しが認められる例外的なケースはありますが認定されるのはかなりのレアケースといってよいでしょう。
注意点3:相続権が次の順位の人に移る
配偶者以外の者が相続放棄した場合、相続権が次順位の親族へと移動します。
たとえば、被相続人の子ども全員が相続放棄をした場合、第二順位の直系尊属、それもいなければ兄弟姉妹などの第三順位へと移ります。
したがって、相続放棄した事実を速やかに次順位の者に伝えることが大切です。
相続放棄を行ったことを通知する義務はありませんが、何もしないでいると親族間でトラブルに発展する可能性があるため注意してください。
注意点4:相続放棄しても空き家の管理責任が残る場合がある
2023年に施工された改正民法により、相続放棄をした者の財産管理義務のルールが明確化されました。
改正法によれば、放棄の時に相続財産を現に占有しているときは、次の相続人や相続財産清算人に財産を引き渡すまで、自分の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務を負います。
つまり、相続放棄をしたとしても、被相続人同居しておりその住居を占有している場合には引き続き管理責任が問われる可能性があるということです。
管理責任を怠り、他者に損害を与えた場合には、賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。
注意点5:被相続人の借金の保証人だった場合は支払い義務が残る
被相続人の借金は相続放棄をすれば、支払い義務が免除されます。
しかし、相続人自身が被相続人の借金の連帯保証人になっているケースもあると思います。
この場合、相続人としての立場での借金返済義務は相続放棄によって消滅しますが、連帯保証人としての個人の支払い義務はそのまま残ります。
貸金業者や金融機関は連帯保証人に対して一括請求を行うため、保証人自身の返済が困難な場合には、自己破産などの債務整理を別途検討しなければならない点には注意が必要です。
注意点6:全員が相続放棄すると相続財産清算人の選任が必要になることがある
相続人全員が相続放棄を行った場合の注意点として、相続財産清算人の選任の費用を負担する可能性があることが考えられます。
相続人が全員相続放棄し誰も財産を引き継がない状態になると残された遺産は相続財産法人のような扱いとなります。
この財産を管理を行い、債権者へ分配し、最終的に国庫に帰属させる手続きを行うのが相続財産清算人です。
相続人全員が相続放棄した場合、近隣住民や債権者からの申し立てにより家庭裁判所が選任しますが、このとき、申し立てを行う者は数十万円から百万円程度の予納金を裁判所に納める必要があります。
空き家の管理から免れるために、相続放棄した相続人自身がこの予納金を負担して清算人の選任を申し立てざるを得ないケースも実務上存在します。
相続放棄に関するよくある質問(Q&A)
相続放棄に関する質問をまとめましたので確認してみてください。
Q. 孫や兄弟姉妹も相続放棄が必要ですか?
本来の相続人が相続放棄を行った結果、法律上の相続順位が繰り下がって自分に相続権が回ってきた場合には、孫や兄弟姉妹であっても当然に相続放棄の手続きが必要となります。
「自分は関係ない」と放置していると、知らない間に単純承認とみなされ、多額の借金を背負うことになります。
家庭裁判所から通知が来るわけではないため、親族間の情報共有が欠かせません。
Q. 借金があるかどうかわからない場合、どうやって調べればいいですか?
被相続人の遺品を詳細に確認し、クレジットカードの明細や消費者金融のカード、銀行の通帳からの引き落とし履歴がないかを確認します。
確実な方法としては、CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センター(KSC)といった信用情報機関に対して、相続人として情報開示請求を行うことです。
ただし、個人間の借金や連帯保証人としての地位は信用情報には登録されないため、契約書類の探索など多角的な調査が求められます。
Q. 亡くなってから3ヶ月以上経って借金の督促状が届きました。どうすればいいですか?
パニックになって慌てて債権者に連絡し、返済の約束をしたり一部を支払ったりしてはいけません。
借金の存在を知った時から3ヶ月以内であれば、例外的に相続放棄が認められる可能性が高い状況です。
督促状や封筒などの証拠をすべて保管し、直ちに相続問題に精通した弁護士に相談することが大切です。
まとめ
今回は相続放棄の手続きや費用、期限などについて紹介しました。
相続放棄は、被相続人の残した借金や複雑な権利関係から自らの生活を守るための重要な手段といえます。
3ヶ月という短い熟慮期間の中で、財産の全容を把握し、冷静な判断を下すことは容易ではありません。
判断に迷う場合には弁護士や司法書士などの専門家に相談することを検討してください。




