交通事故の過失相殺|持病(素因減額)があると不利?

2026/05/01

交通事故の過失相殺|持病(素因減額)があると不利?

交通事故の損害賠償において、過失相殺や素因減額は受け取れる金額を左右する重大な要素です。

事故の責任割合だけでなく、被害者の方自身の持病や性格が賠償額の減額要因として主張される場面が多々あります。

本記事では、交通事故の過失相殺について解説します。

過失相殺とは?事故の責任割合に応じて賠償金を減額するルール

過失相殺とは、不法行為による損害賠償において、被害者の方側にも過失があった場合に、裁判所がその程度を考慮して賠償額を減額することを指します。

民法722条2項に規定されており、損害の公平な分担を図ることがその目的です。

たとえば、損害の総額が1,000万円であっても、被害者の方に20パーセントの過失が認められる場合、受け取れる賠償額は800万円となります。

この仕組みは、被害者の方が自己の不注意によって損害を招いた場合、その分については自ら負担すべきであるという考え方に基づいています。

法的な場面においては、加害者の義務を軽減するだけでなく、社会全体として事故防止の注意を促す役割も担っています。

過失割合は誰がどのように決めるのか

過失割合は、事故当事者の主観的な言い分だけで決まるものではありません。

法的な運用の場においては、裁判例を類型化した基準を用いて算出されます。

一般的には、別冊判例タイムズ38号などの専門書籍に掲載された基準が参照されます。

まず、事故の状況を信号の有無、道路の優先関係、一時停止の有無などの客観的事実から基本割合を決定します。

その上で、速度超過や脇見運転、夜間、住宅街といった修正要素を加味して、最終的な割合を確定させます。

具体的な運用においては、警察が作成した実況見分調書や、ドライブレコーダーの映像、周辺の防犯カメラの記録などが証拠となります。

保険会社は自社に有利な基準を提示してくる可能性があるため、その割合に不満を感じた場合は、客観的な証拠に基づいて適正な割合を主張することが大切です。

過失相殺の計算方法と具体例

過失相殺の計算は、損害の全項目を合算した後に、過失割合を乗じて行われます。

以下に、具体的なシミュレーションを提示します。

①損害の総額を算出する

まず過失相殺を計算するには損害の総額を算出する必要があります。

ここでは、治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益、車両修理費などを合算し、2,000万円になったと仮定しましょう。

②過失割合を適用する

次に①で算出した損害の総額に、過失割合を適用します。

被害者の方の過失が30パーセントであると認定された場合、計算式は以下のとおりです。

2,000万円×(1-0.3)=1,400万円

③既払金の調整を行う

②の過失割合が適用された額から、既払金の調整を行います

既払金とは、治療費などのようなすでに、保険会社が支払った費用のことをいいます。

今回のケースでは、すでに治療費として保険会社から300万円が支払われていると仮定します。

すると、最終的な受取額は以下になります。

1,400万円-300万円=1,100万円

ここで注意すべき点は、過失相殺は治療費や通院交通費といった実費項目にも適用されることです。

過失割合が高い場合には、最終的な示談金から多額の治療費が差し引かれ、手元に残る金額が極端に少なくなるリスクも考慮しなければなりません。

【本題】持病や既往症があると素因減額で不利になる?

過失相殺と並んで、賠償額の減額要因となりえるのが被害者の方の心身の特性に起因する素因減額です。

これは過失とは異なり、被害者の方に落ち度がない場合でも適用される可能性があるため、被害者の方の納得感を得にくい領域です。

素因減額とは?被害者の方の心身の要因が損害を拡大させたと判断されること

素因減額とは、被害者の方がもともと持っていた身体的な疾患や精神的な傾向が、事故による損害の発生や拡大に寄与した場合に、賠償額を減額することを指します。

たとえば、通常であれば全治1ヶ月の打撲で済む事故であっても、被害者の方に重度の骨粗鬆症があったために骨折し、1年以上の治療が必要になった場合などが検討の対象となります。

加害者の行為だけでなく、被害者の方側の個別の事情が損害を大きくしたとされる場合、その拡大分については加害者の責任を限定するという考え方です。

法的な運用の場においては、これを無視すると加害者に過大な負担を強いることになると判断される場面があります。

素因減額は過失相殺の考え方を応用している

素因減額は、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用することで認められています。

つまり、被害者の方の体質や性格を過失と同列に扱い、損害の分担を調整するものです。

最高裁判所の判例によれば、損害が被害者の方の身体的または精神的要因によって拡大したとき、その要因を考慮して賠償額を定めることができるとされています。

ただし、全ての持病が減額の対象になるわけではありません。

人間の体質には個人差があるのが当然であり、標準的な人間という抽象的な基準を厳格に適用しすぎると、多くの人が賠償を制限されることになってしまいます。

そのため、疾患としての程度や、損害との因果関係が精緻に精査される手順となります。

具体的な運用においては、減額の可否や割合について、医師の意見書や過去の医学的データが主要な判断材料となります。

素因減額が認められる2つのケース

素因減額は、大きく分けて身体的な要因と精神的な要因の2つのカテゴリに分類されます。

それぞれの認定基準には明確な違いがあり、裁判例の傾向を把握しておくことが重要となります。

具体的に確認していきましょう。

ケース1:身体的素因(持病・既往症など)

身体的素因とは、被害者の方の肉体的な疾患や体質に関する要因です。

加齢に伴う変化や、事故以前から抱えていた慢性的疾患がこれに該当します。

疾患と身体的特徴の違いが重要

法的な場面において極めて重要な区別は、それが疾患(病気)であるのか、それとも個人の身体的特徴にすぎないのかという点です。

最高裁判決(平成8年10月29日)によれば、被害者の方の首が通常より長い、あるいは首の筋肉が弱いといった程度の身体的特徴は、疾患には当たらないため素因減額の対象とはなりません。

人間には様々な個体差があり、加害者は被害者の方をあるがままの状態で受け入れるべきであるというあるがままの原則が優先されます。

一方で、医学的に病名がつき、治療が必要な状態にあるものは疾患として扱われ、減額の対象となる可能性があります。

この境界線は非常に曖昧であり、具体的な病状が平均的な範囲を逸脱しているかどうかが有力な判断基準となります。

減額の可能性がある疾患の例

交通事故において、素因減額が主張されやすい具体的な疾患には、以下のものがあります。

  • 後縦靱帯骨化症
  • 椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症

後縦靱帯骨化症は、背骨を支える靱帯が骨のように硬くなり、神経を圧迫する難病です。

事故の衝撃で神経症状が劇的に悪化した際、この骨化の存在が損害拡大の主要な要因とみなされることがあります。

椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症は、加齢に伴って多くの人に多かれ少なかれ見られる変性です。

しかし、事故前にすでに強い痛みがあったり、画像上で著しい変形が認められたりする場合、事故による寄与分を制限する主張がなされます。

骨粗鬆症が深刻な高齢者の場合、軽微な追突でも圧迫骨折を招くことがあり、これが加齢の範囲を超えた疾患として考慮される場合があります。

ケース2:心因的素因(性格・精神状態など)

心因的素因とは、被害者の方の性格上の特性や精神状態が、治療の長期化や損害の拡大に影響を与えた場合を指します。

個性の範囲を超えると判断された場合に減額の可能性

人間には楽観的な人もいれば、不安を感じやすい繊細な人もいます。

通常の個性の範囲内であれば、精神的な要因で減額されることはありません。

しかし、被害者の方の精神的な特性が疾患に近いレベルであり、それが損害を著しく拡大させたと判断される特段の事情がある場合に限り、減額が認められます。

最高裁判決(昭和63年4月21日)では、被害者の方の性格が通常人の範囲を著しく超え、それが損害に寄与した場合には、過失相殺の規定を類推適用できるとしています。

たとえば、治療に対して極度に非協力的であったり、些細な症状を過大に捉えて執拗に検査を繰り返したりする行動が、客観的な医学的根拠を欠く場合に検討されます。

事故後のうつ病や自殺も素因減額の対象になる?

交通事故のショックからうつ病を発症したり、最悪の場合、自殺に至ったりするケースも存在します。

これらの損害について賠償を求める際、被害者の方がもともと精神的に脆弱であったか、過去に精神疾患の通院歴があったかという点が精査されます。

事故という外部からの衝撃と、被害者の方個人の精神的要因のどちらが結果に対する支配的な要因であったかが問われることになります。

多くの裁判例では、事故の重大性やその後の生活環境の変化を重視しますが、被害者の方の内面的な特性も一定割合で考慮される可能性が高い状況です。

素因減額を主張されたときの対抗策

保険会社から素因減額を理由に提示額を下げられた際、最も強力な反論の根拠となるのが、あるがままの原則です。

これは、加害者は被害者の方の特殊な体質を含め、事故の瞬間に存在した状態の被害者の方をそのまま傷つけたのであり、その結果に対して責任を負うべきであるという考え方です。

まず、事故前にその部位に痛みや不自由があったかを確認します。

もし支障なく就労や日常生活を送っていたのであれば、疾患があってもそれは潜在的な状態にすぎず、損害の拡大要因として大きく評価すべきではないと主張します。

次に疾患の寄与度を医学的に検証します。

画像上、変形が見られるからといって、直ちに現在の症状の原因であるとは言い切れません。

事故の衝撃の強さや受傷機序を分析し、外部要因の大きさを強調することが有力な方針となります。

最後に判例を確認します。

過去の裁判例では、一定の加齢による変性については素因減額を否定する傾向が強まっています。

自身の病状が平均的な老化の範囲内であることを主張し、安易な減額を拒否する姿勢が求められます。

具体的な運用においては、主治医に対して現在の症状が事故によって引き起こされたものであることを裏付ける意見書を依頼することが望ましい対応です。

過失相殺で他にも争点になりやすいケース

事故の状況によっては、基本的な過失割合の算定以外にも、特殊な事情による減額が問題となることがあります。

好意同乗(無償同乗)で減額される場合とは?

好意同乗とは、友人や知人の車に無償で乗せてもらっている状態を指します。

以前は「乗せてもらっているのだから、事故に遭っても賠償を控えるべきだ」という考えもありましたが、現在は原則として同乗者であるというだけで賠償が減額されることはありません。

ただし、以下の事情がある場合には、信義則上の減額がなされる可能性があります。

  • 運転者が飲酒していることを知りながら同乗した場合
  • 定員超過や、暴走行為を煽るような危険な乗り方をしていた場合
  • 運転を妨害したり、居眠り運転を容認したりするなどの不適切な関与があった場合

上記のような、同乗者にも事故の発生について何らかの責任や危険の引き受けが認められる場合に限り、賠償額がカットされます。

被害者の方側の過失(家族や友人の運転する車に同乗していた場合

被害者の方自身には全く過失がなくても、被害者の方が乗っていた車の運転者に過失がある場合、その過失が被害者の方の過失として扱われることがあります。

これを被害者の方側の過失と呼びます。

法的な運用の場において、被害者の方と運転者が身分上または生活上一体とみなされる関係にある場合、損害の公平な分担のために適用されます。

たとえば、夫が運転し、妻が助手席に乗っている際、相手車両との接触事故が発生した場合を想定します。

相手車両の過失が60、夫の過失が40である場合、妻の損害2,000万円に対し、夫の過失40パーセントを考慮して1,200万円に減額される可能性があります。

もしこれを認めないと、妻は相手から全額を受け取り、その後に相手が夫に対して求償を行うという複雑な手続きが発生し、実質的には夫婦の家計に不当な利得が生じることになると考えられているためです。

友人関係の場合は一体性が認められにくいですが、親子や夫婦、あるいは雇用関係などではこの理論が主要な争点となりえます。

保険会社の提示する過失割合や素因減額に納得できないときの対処法

保険会社の提示は、あくまで自社の基準に基づいた一方的な提案にすぎません。

その内容を鵜呑みにしてサインをすることは、将来の生活を不安定にするリスクを伴います。

安易に示談に応じるのは危険!

示談書には、清算条項と呼ばれる項目が含まれているのが一般的です。

一度署名と捺印をしてしまうと、後から「実は納得がいっていなかった」と言っても、内容を覆すことは困難になります。

特に後遺障害が残る可能性がある事案では、症状固定を待たずに示談することは厳に慎まなければなりません。

素因減額として30パーセントもの減額を提示された場合、それは数百万円単位の損失に直結します。

まずは提示された割合の根拠、すなわちどの判例やどの医学的所見に基づいているのかを詳細に説明させる姿勢が必要です。

客観的な証拠を集めて反論の準備をする

反論を行うためには、感情論ではなく客観的な事実を積み上げること重要となります。

過失割合については、事故直後の警察の調査結果や現場周辺の映像を再精査します。

素因減額については、健康診断の結果や過去の通院履歴、仕事への従事状況などを整理する必要があります。

事故前まで支障なく働いていた、あるいは重い荷物を運ぶ業務をこなしていたといった事実は、持病が損害拡大の主要因ではないことを証明する強力な反証資料となります。

また、医師に対して、今回の症状が衝撃の強さに見合ったものであるという医学的見解を求めておくことも大切です。

交渉がまとまらなければADRや裁判で解決を目指す

保険会社との話し合いが平行線をたどる場合には、第三者機関の利用を検討すべきです。

日本損害保険協会のそんぽADRセンターや、日弁連交通事故相談センターなどの紛争解決手続きを活用することで、中立的な立場から助言を得ることが可能です。

裁判所を通さないため、迅速かつ比較的安価に手続きを進められる可能性があります。

それでも解決がつかない場合には、最終的に訴訟を提起して裁判所の判決を仰ぐことになります。

過失相殺や素因減額でお悩みなら弁護士への相談がおすすめ

交通事故の損害賠償、特に過失割合や素因減額の争いがある場合に弁護士へ相談するメリットは以下のとおりです。

メリット1:医学的知見に基づき適切な主張を組み立ててくれる

素因減額の議論は、法律だけでなく医学の領域に深く踏み込む必要があります。

経験豊富な弁護士は、過去の膨大な裁判例を精緻に分析し、どの程度の症状であれば減額を回避できるかという見通しを立てることができます。

また、協力医などのネットワークを通じて、保険会社の主張に医学的な矛盾がないかを検証することも可能です。

MRI画像やCT画像などの証拠に基づき、弁護を行えるのは弁護士に相談するメリットといえます。

メリット2:証拠収集や保険会社との交渉をすべて一任できる

事故の対応には、多大な時間と精神的なエネルギーを浪費します。

弁護士に依頼することで、煩わしい保険会社との電話や書面のやり取りを全て代行してもらうことができます。

資料の収集や事故状況の再調査なども任せられるため、被害者の方は治療や仕事の復帰に専念できる環境が整います。

法的な運用の場に精通した弁護士が交渉に立つことで、保険会社も安易な基準で話をまとめることができなくなり、緊張感のある協議が実現します。

メリット3:慰謝料など賠償金全体が増額する可能性がある

弁護士に交通事故を依頼するメリットとして、いわゆる裁判所基準での請求が可能になります。

保険会社が提示する独自の任意保険基準は、裁判所の基準よりも大幅に低く設定されていることが多々あります。

過失相殺や素因減額でたとえ一定の減額がなされたとしても、基本となる賠償額そのものが裁判所基準に引き上げられることで、最終的な受取額が大幅に増加する事例は珍しくありません。

不当な減額を防ぐと同時に、正当な算定基準を適用させることが、納得のいく示談を成立させるために重要となります。

まとめ

今回は交通事故の過失相殺について解説しました。

交通事故の賠償額を決定する過失相殺や素因減額は、事案の公平性を保つための重要な仕組みですが、その判断は非常に難しいです。

特に持病がある場合の素因減額は、被害者の方の個性を否定されるような不快感を伴うことも多いため、法的な根拠に基づいた冷静な反論が指針となります。

保険会社の提示に納得がいかない場合や、専門的な議論に不安を感じる場合は、弁護士に相談することを検討してください。

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